俺は走った。 それはもう五分十分なんて話じゃない。走り出して早三日になる。 「はぁっ…は…っあ」 荒い呼吸を繰り返しながら、俺は、こんなに走ったのハンター試験以来だな、なんて暢気に考えていた。 「あ」 もうすぐ夜明けが迫っているようで、辺りが薄明るくなってくる。三日走りっぱなしだし、別に野宿とかザラだし、そんなもの珍しいわけではないが、目の前に大海原が広がっていては逆らえない。俺はそんな理由をつけて船着き場にしゃがみこんだ。 「あーあ!」 何やってんだろ。 だって仕方がないんだ。 『好きだよ』 彼の告白は俺をいとも簡単に崩壊させた。こんな時ばっかり、彼の無鉄砲な言動は極めて効果的である。 『好きだよ、キルア』 心臓が焼ける。 まさにその表現が相応しい。胸の奥をぐしゃりと握っては気持ちを全部持っていかれて、ああ、もういいや、こいつに殺されるなら本望だなんて殺し屋らしからぬ思考回路を自嘲した。 『キルア』 彼から逃れるためにここへ来たのに、未だ脳裏には彼がぴったりと貼り付いて離れないでいる。 「ゴン……」 「なあに?」 それも文字通りのストーキングであった。 「は!?ちょっ、おま、なんでここ」 「キルアの方こそなんで勝手にいなくなったりするの」 「……ごめん」 「いっぱい探した」 そしたらゴンがぐるって俺の身体に手を回して、後頭部を撫でる。仕舞いにゴンの優しい声と脈打つ鼓動である。無条件降服。全身大火傷を負った俺が力を抜くが早いか、彼はおずおずと俺の唇に吸い付いてきた。 「んぅ」 それも俺の口内をぐちゃぐちゃにするパターンである。 「っぷは、あ」 「んんっ」 調子にのんな、って舌を噛んだら慌てて出ていきやがる。いってえ、なんて舌を擦るゴンが面白くて、今度は俺から、特別激しいのをくれてやる。 「んぅっ、あ、は」 俺だって無垢なこいつをひんひん言わせるくらいのキスができる。思いっきり吸って、唾液が舌を繋ぐ様を満足げに見届けると、その先で、それでも彼は余裕綽々とばかりに微笑んでいた。 「ふふ」 「なんだよ」 「俺のこと大好きって顔してる」 漸次俺はけたたましいほどの灼熱地獄に飲み込まれる。顔が爛れたように痺れていく感覚を俺は気にも止めなかったが、それを彼に押さえ込まれて、もう一度キスを食らわせられた時にはもう自覚するより他なかった。 「キルア、熱いね」 舌も、顔も、身体も、きっときっと熱いのは彼のせいだというのに彼は何ら悪びれる様子もない。 「ねえ、俺のせいかな?」 むしろ得意満面に俺をたしなめて、傷口に塩を塗りたくるように俺の燃えた箇所を愛撫した。 「ねえ」 慣れない感情は俺のなかで膨れ上がり、またも爆発しそうな仕上がりに彼を思った。これは一体どうしたらいい。絶え間無く愛しく感じるゴンの存在はもはや彼なしでは生きられないほど。 「俺のこと好き?」 いっそ殺してくれ。 彼の言動に脆弱しきった自分は自分ですら見るに耐えない。醜態を晒すくらいならいっそ火葬で、彼に身体を包まれたその幸福感で逝かせてほしい。 end. |