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□夢中遊行症
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「キルア」

「ん、はよ」

「夜中のあれはなんなの」

「は?」

本題はここからだ。
翌朝、ゆうべのことを尋ねてもキルアは素っ頓狂な返事をし続けた。俺はその手の専門家じゃないが、素人目に見てもそれはあくまでノーマルなものである。詳細を説明するのは今の禁欲状態を鑑みても相応しくない。俺は問いただしたい気持ちをぐっと堪えて笑った。

それが明くる日も、明くる日もである。

もしかしたらこれは俺の夢なんじゃないか。
だって夢は願望と言う。つまり、実際には到底なせないであろうシチュエーションを夢のなかで自在に作り出しているのだ。確かにあまりに非現実。証拠もない。夢精とか、朝勃ちとかをやらかしていないだけイカシテいる。なけなしのポジティブシンキングをひけらかして事態を収拾すると、なんだか今夜はよく眠れそうな気がした。

「ん、キルアっ」

やっぱりだ。
今宵も彼は一心不乱に俺の股間にしゃぶりつく。しかし上手いなあ、なんて自分の逞しい想像力を自画自賛して細い髪を掻き上げた。

「ゴンっ、ゴン、ゴン」

今日はいつもよりずっと色っぽい。キルアは俺の身体を巧みに上って俺の頭蓋骨を引き寄せた。キスできそう。またも俺はそう思って唇を尖らせる。

「好き」

あと三センチ。キルアは俺の唇をからかうように、直前で扇情的に呟いた。これだけでイってしまいそうである。しかしキルアの唇が俺のそれと重なることはなく、視界から消えた猫口は代わりに俺の首筋に貼り付いているようだった。

「キルアっ」

「んぐ」

今日はそれでおしまいらしい。覚醒しない彼に嫌気が差して、もうトイレになんて行ってやるもんかと隣で利き手を滑らせる。思いの外早く果てて、拭ったティッシュを放り投げるともう朝日が登りかけている。俺たちの朝は遅い。ふて寝するには十分だった。



「おい、おいゴン」

「やだー」

「ゴンってば」

「なんでー」

「寝惚けてないでさっさと起きろ」

「ばかー」

「お前これ説明するまで命の保障ねーから」

「んあっ!?」

飛び起きると、キルアは夢同様、俺の唇三センチ先で扇情的に呟いていた。しかし眼差しはあんないいものではない。悪巧みをするように吊った目を細めて俺を見下している。


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