「適当にオモチャも貸してよ」 「だそうだ」 独特の受付と一方的な会話をして、エントランスを抜ける。薄暗く人気のない廊下を歩けば、それでも物好きはいるようで、娼婦だろうか、昼間っから相手方のいいように甲高く喘ぐ女の声が筒抜けだった。 「レオリオはもっとおとなしくしろよ」 まだこんなことを言っている。その口か、と握り込んだ拳を上げかけて腰につけ直すと、振り返ったキルアがやさしくするから、と無邪気に笑うので結局殴ってしまった。 「…203、204、205」 部屋番号を読み上げる声に好奇心が伺える。面白半分で痔になんかされてはたまらない。当初の企てを思い出して俺はまた知恵熱を出した。 「ここだな、207号室」 掴んだ肩を軽々と押し退けて、キルアは勢いよく部屋へ飛び込んだ。部屋へつくなり大きなベッドへ突っ伏してぴくりとも動かない。 死んだんじゃねーのか。 微笑して横にかけた頃にやっと日が暮れてきた。なんだムードを出しやがる。仕方ない、悔しいが恋人を目の前に駄々をこねている場合ではないのだ。 「どした、怖いのか」 冗談めいた一言がやっと発言権を得られた。キルアの頭を誤魔化すように撫でてオーラを探る。やっぱり俺にはよくわからん。 「自分で言い出しといて急に怖くなったんだろ」 キルアは何も言わない。 「だから俺に任しとけっつったろ」 もともと饒舌というほどではないが、口は減らないタイプだ。こうも寡黙なキルアは可愛いを越えて、なんかこう、むしろ大丈夫なんだろうか。 「怖いなら怖いって」 こくん。 今きっとそう鳴った。俺はなにも考えなかった。いや、考えないようにしたというのが相応しい。キルアが考えていることは俺にはさっぱりだ。 だから願った。気づいてくれ。 煌びやかなネオン街に溶け込んで、大人の真似をすりゃいいってもんでもない。通過儀礼でもない限り、無理にそうすることは必ずしも大人への最短ルートじゃないってことだ。本当にそうしたいと心から欲したときにするのが望ましい。だから場所はラブホテルじゃなくてもいい。夜じゃなくてもいい。俺が女役でも、お前でもかまわない。いっそもう極めつけ、今日はやめにして、適当にじゃれて寝落ちするのも悪くない。 |