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□プロポーズ
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ゴンの衣服を、腕を、唇を捕らえるつもりで雑草を握った。自惚れてなんかいないさ。ゴンに会ったその日から、こいつは俺の手に負えないってわかってた。けどそんなの、俺だってお前の手に負えないんだからさ。



「一緒に来てください」



すべて見透かすくらい傍にいてよ。もうお前のことなんてすべてお見通しだって、使い回しの台詞を吐いて。刹那、俺はゴンに見透かされていた。ねえ、泣かないでって、どこへも行かないよ、キルアなしではって、言ってほしくて、言われてるような気がして、なんでお前はほしい言葉をちゃんとくれるのかって悔しい。

「いたっ」

なんとなくムカついて、ゴンを殴った。ゴンも殴り返してきて、この期に及んで馬鹿馬鹿しいほどの幼稚な喧嘩が始まる。桑の木のまわりを右へ左へ。なんら憤怒していなかった。まるでセックスみたいに、好きだ、嬉しい、幸せって気持ちを交換している。こういうのって、つまり、プロポーズだ。

「オーケー」

木に登って足をばたつかせる。下からはゴンが満足げに見上げている。なんとなく目に入った実を口に運ぶが、ひどく未熟で顔をこわばらせた。
完熟するまでにいくつ寝ればいい。
何個か星をもらえる頃には、皺を作り、白髪になったり禿げたりしている頃には。そうしたらきっと庭でこいつを育てて、ジャムを作ってやる。入れ歯に目一杯力を込めて、乾燥しきった固いパンをかじる。

「来るか、ククルーマウンテン」

「え?」

「勝手に籍なんて移したら、親父に殺されるぜ」

行っていいの、と跳び跳ねるゴンを讃えるように空は温かなスポットライトを浴びせた。雲が大きな手を形作り、差し伸べて天にも昇る。

ここで一つ訂正しよう。

必然的に、俺たちは付き合った。手を繋いで、キスをして、セックスをした。喧嘩も仲直りもした。
だから必然的に、これからもそんなことをしながら死ぬまで一緒にいる約束をして、わあ、俺ってばなんて幸福者、なんてノロケたっていいじゃん。

end.

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