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□プロポーズ
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なんとなく。
俺たちは付き合った。手を繋いで、キスをして、セックスをした。喧嘩も仲直りもした。
だからなんとなく。
これからもそんなことをしながら死ぬまで一緒にいられる気がして、はあ、つまんねー人生だな、なんて愚痴を溢してみせる。



「俺、くじら島に住もうと思うんだ」



ゴンはまるで大空を口説き落とすようにそう言った。

「やっぱり俺くじら島が大好きなんだ。人も、動物も、土とか木だって大好きだから」

雲ひとつない青すぎる空に、初夏特有のむさ苦しいのに爽やかな風が吹き抜けて、格好がつく。青々と繁る緑が背景なら、きっと何を言ったってそうかそうかと頷くしかないじゃないか。

「一緒に住もうと思うんだ」

笑えない冗談にしてはきつい。
俺の考えはいつまで経っても餓鬼で、そりゃこいつも餓鬼だけど、詰めが甘くて嫌になる。
なんだって俺とこいつが一緒にいなきゃならない。ゴンは父親を探してる。そんな親父は行方不明でも、くじら島に縁とゆかりは売るほどあった。くじら島にて待つ。こんなに合理的なのが脳裏にも浮かばなかった。二人仲良く暮らしました、なんて夢物語くそ食らえ。

なんだか視界がぼやけるな。

なんだか口がしょっぱいな。

なんだか、もうどうでもいい。

「そうか」

案の定出た言葉には案の定気持ちなんかこもっちゃいない。ナイスアイディア、元気でやれよ、とも、やだ、行かないで、とも言えないんだ。適当な相槌をうって、明後日を見つめながら夕飯のことを考えるしか能がない。


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