「セックスって知ってる?」 からかっただけ。 「なあ、セックスって知ってる?」 覚えたての性用語を繰り出して得意気にしてみたかった。誰でもないクラピカを相手に、困った顔とか恥ずかしがる顔を見たかった。冷静沈着で綺麗なクラピカの、ちょっと崩れた隙に付け入りたかった。 「なあって」 「知っている」 でもやっぱりクラピカは表情ひとつ変えないし、さも当たり前だろ、何を言っているんだ、くらいの見下した態度。よくよく考えれば、こんな可愛い顔をしていてもクラピカは年上だし、歴とした男子、というか烈士であった。 「なんだ、セックスがしたいのか」 ああ、やられた。 こうして出鼻を挫かれるのは癪ながら日常茶飯事だった。クラピカは悪気もなくそうしてくるのだから余計にむしゃくしゃする。そして冒頭に戻るのである。 「ヤってくれんの?」 そんな気はさらさらないのだが、やられっぱなしはどうも性に合わない。口角を上げてそう食い下がるも、やはりクラピカは動じず、何かまたつまらなさそうな古書を読み耽って応答する。 「かまわないが」 こいつ到頭この手の話に耐性が無さすぎて頭がおかしくなったんじゃなかろうか。生返事にもほどがある。俺は一度大きく目を見開いて、それからまた少しからかってやろうと企てを起こした。 「本当に意味わかってんのかよ」 「性交のことだろう」 「つまり?」 「性と性の交わり」 「文字通りか」 「下品な言い回しは好まない」 「まず好き合った者同士がやるもんだろ」 「それも一理あるな」 「クラピカヤリチン発言」 「なんだと」 「冗談」 からかい甲斐がないってこういうのを言うんだろうか。冗談を真に受けるタイプではあるんだが、さしてリアクションがあるわけでなし。差し出がましいようだが、もう少し笑ったらどうだ。可愛い顔が台無しである。まあ実のところこんな真っ昼間に、お偉いさんの娘の護衛でホテルを一歩も出られないのは結構来るものがあった。 |