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□月が綺麗ですね
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「よう坊主」

来た。

「ゴンなら西の角部屋」

AM2:43

最近は専らこのあたりのチンピラにお熱らしく、かなりの高頻度で例の興奮に苛まれていた。隣接された廃墟だろうか。階層は違えど、独特の切れ味は念を使えば一目瞭然だ。そんな時は決まってオーラを絶つことにしている。

「なんだ、つれねーなあ。デートの誘いだぞ」

早くゴンのところに行けばいいものを、今日のノブナガはことに油を売りたがった。折角の絶も単なるオーラの節約に成り下がる。こういう会話をしたくないからやったのに、彼はちょっとは相手しろよと言うように窓枠に腰掛けて座談会でも催す気だ。
冗談じゃない。
こちとらお前の顔がちらつくだけで不眠症なのに、増して話す。しかも例によって十中八九、ゴンはすげえだ強いだ可愛いだ好きだって始まったらもうこの世に未練もない。微動だにしない俺に一言、また彼は上手い誘い文句を決めかねている。

「満月とは乙だねえ」

試しに寝返りをうって、月光に向かって驚いた。蒼白い、紫陽花のようなまあるい月が、ぷくりと天に居座っている。だがそれではない。満月に照らされるノブナガの幻想さ足るやそれに一切引け目をとらないのである。

「来いよ、どうせ今日も眠れないんだろうが」

いつの間にか起こしてしまっていた上体が恥ずかしい。寝入りを邪魔された餓鬼を演じるつもりが、野暮ったい気持ちが前のめってしまう。見たい。話したい。触れたい。きっと身を乗り出してしまっていたから、悟られたかもしれない。ノブナガはさも俺の不眠症を知ったような口で、でも何も知らないのだ。でなければゴンを好きだなんて、あってはならない。期待させられて、絶望させられて、また期待させられる。
もうたくさんだ。
俺は月を仰ぐノブナガの背後から、絶のままに近づいて、そっと首筋に爪を添えた。



「焦んなよ」

殺ってしまえたら三年は寝られる自信がある。でもすぐにそれは無茶なことだと気付く。出来るわけがない。それは心身ともに彼に毒されたことを肯定しての結論だった。


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