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□月が綺麗ですね
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あと一手のところで止めをさせない。ほんの少し力を加えれば、硬化させた身体が彼を引き裂いて、出血多量で死んでくれればこれ幸い。詰めが甘い、と兄貴には散々咎められたものだが、今や殺人なんて朝飯前なのだから俺の腕が落ちたわけではないだろう。つくづく色恋なんて面倒なものに引っ掛かってしまった。



「似てるなあ」

ノブナガは振り向いて俺の顎をなぞる。掌は凄まじい念を放つとは思えないほどにほんのりと暖かく、皮膚は硬く、骨ばって大きいのだ。ちょっとだけ、親父のそれに似ているかもしれない。

「気色悪いくらい綺麗で、可哀想で、見ててやらなきゃいけねーような気になる」

そんな風に月を見てるのか、俺を見てるのか、よくわからないが口説き文句には違いなかった。

「少しお転婆が過ぎるけどな」

「放せよ」

ノブナガの肌はカミソリ負けか少し荒れている。こんなに近づいたのは初めてで、こうしていられるのは念を制御してくれているノブナガ様々であった。





「ノブナガ」

「黙ってろ」

AM3:20

寝巻きの首もとはもたついていた。襟を捕まえて上下左右に引きずられていたためである。消灯された田舎町を眼下に襟をただすと、丁度月が真ん前に擦り寄る。ノブナガの足の間に強制着座させられた後はすこぶるパニクった。振り向くこともさせじと抱き込まれ、嫌でも感じる体温と体臭に陶酔しきって拗れる。





ノブナガの円になりたい。





オタク共がアイドルの衣服になりたい、手足になりたいとほざくことを狂気の沙汰とせせら笑ったこともある。愛する者の一部になりたいと思うのはたぶん自然なのだ。加えて、念は彼から出ていって彼に戻り、彼の思うままに操られることを承知している。まして円なんてのは彼を覆う至高の緊縛だ。焦がれるっていうのはすべからく利己的なもので成り立っている。でもどうせ報われないならば利己的だろうが利他的だろうが知らない。ノブナガに焦がれることはそういうことだった。


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