攻介は晴人が好きだった。 でも、こいつには喉仏がある。ブランドもののボクサーパンツを腰から覗かせて、やや筋の浮かんだ、チョコレートのような括れ方をしている。貧乳も甚だしい。要するに男であるのをことさら意識して、勃起したそれを便所で処理した。いっそ萎えてくれたらまだよかった。あまつさえ中に押し入る気が失せないのだから呆れる。回数は片手に収まらなくなっていた。男っていうのはこんなに辛く切ないのに凛々としていられる生き物なのだ。そして晴人もまた、男性具有者。 ―――はあ。またむらむらしてきた。 木製のベンチはギシ、と大袈裟な音をたてて攻介を支えてくれる。穏やかな天候がそうさせるのだ。適当な言い訳をして逃げるように攻介は眠りについた。 「はる、えっ」 晴人の奇行は冴え渡っていた。何でもそつなくこなすイケメンは、ごく稀に珍妙な行動に出る、いわゆる天然である。そうでなくては地球の均衡が保てない。攻介はそう納得していた。とは言え、今日の晴人はそれが遺憾無く発揮されすぎている。普段肩を寄せることさえ煙たがる晴人は、べンチに微睡む攻介を組敷いて観察していた。 「な、にして」 脳が入っているにしては小さすぎるその顔に、合わせるような小振りで円らな瞳。桜色の唇は形もよく、薄いのに弾力がある。そして口内を陣取る舌は熱く滑ってよく絡む。というのはあくまでも仮定の話だ。なんたってそれは接近どころか発声もしない。確実に至近距離を保って静止しているのだから事態は全く変わり映えがなかった。 「晴人」 これは願ってもない好機かもしれない。攻介は前頭部をフルに使って随分と間抜けなことを閃いていた。 このままランチタイムに持っていけないものか。 晴人がキスをしてくれたら、攻介は告白する必要がない。晴人が前戯をしてくれたら、攻介は強姦する必要がない。こんなにも必要にして十分。攻介は姑息にも瞼を閉じ直す。 「起きろマヨネーズ」 それは肉でも魚でも、ましてファントムでもない強烈なブレイクファストだった。寝癖をもそもそと掻き回しながら、大きな欠伸を隠しもしないで寝ぼけ眼に晴人を写す。さっきのはコピーか。相反する可愛いげのない晴人の言いぐさに内心たじろぐ。やはり仮定は仮定で終わってしまったようだ。 「差し入れ」 「うお、ドーナツ」 「お前はこっち」 「わかってる。皆まで言うな」 攻介は粉砂糖のきいた鮮やかな橙色のドーナツを袋から抜き取り、さも当たり前のようにマヨネーズを塗りたくる。もう舌が馬鹿になっていて、マヨネーズを差し引いた味は無味に等しい。それを知っていても、うわあ、と悲鳴をあげてしまうのはもはや生理的な問題だ。晴人は不味くなった唾液を缶コーヒーで流し込む。 |