「待って」 日の暮れたばかりの寝室で、点灯もせず、唐突に色欲に駆られたキルアを只ひたすらに受け止める役はなまじ買って出るものではない。馬乗りになって、泣き縋るがごとく肌を合わせる少年を俺は心底愛していたが、節介と言ってしまえばそれまでだった。 「ねえ、キルア」 時折煩わしささえ起る愛撫に、俺は気落ちというには青い感情を持ち合わせている。俺を欲しているらしい彼の目は全くの虚ろで、俺を通じて何か途方もない安堵を貪っているように見えた。白々しいほどの、よく澄んだ銀髪に指を絡めるもかなわず、制止を振り切って聞く耳すらない。それでも、少なからず俺に理性が息づいているうちにキルアを救ってやりたい。良心とも偽善ともつかない、俺は脆弱なエゴのストッパーを掛けた。 「やめようよ」 キルアは俺の性器をしゃぶる口手を止めない。混沌とした心情に相反して、そこは快楽にのみ従順であった。 「だめ、だって、ばっ」 余りの早急な口淫に射精感を催しては、堪らずそこから額を引き剥がす。髪を加減なく掴んでいるというのに当のキルアは得意満面。M字にひけらかした秘部を自らの指で粗雑に慣らしながら振り下ろしてくる。一部始終を見留めつつ、俺にもはや諌める気は起らなかった。 「ああっ…は、あん」 「キ、ルア」 「あっ、んあ…ふぁ…っくふ」 「はあっ、キル、アぁ」 「ゴン…っ」 やっと呼称してくれたおかげで、俺の煩悩は如実にも体位に現れてしまう。腹筋を起こして彼を抱きしめてからは、シーツがキルアの体躯に沿って波紋をなすように抱き潰した。スプリングが軋むのを気にする余裕などありはしないのだが、こちらの仮住まいにはとても申し訳が立たない。それほどまでに俺はピストンを速め、キルアは完ぺきな受け身でもって四肢を絡ませていた。 「ん…あっあっ、イ、やは」 「キルア、キル、アっ」 「うん゙っ、ああアッ!」 前立腺と思しきしこり目掛けてスパートを掛ければ、キルアはしかも呆気なく果てる。口に射精しなかった割に長持ちした。暫くして俺もキルアの中に白濁を注ぎ入れた。 「うぅ、はっ、はあ、はん」 また、救えなかった。散々彼を好きにしておいて思う事は凡そこれだった。重い身体をキルアから退かして、引き抜いた性器を適当に拭うのでさえ自己嫌悪が付きまとう。 ふとキルアの方へ視線をやる。恍惚とした熱っぽい表情はそのままに、両手を大きく開いた股の間につけて失禁寸前が如く何か堪えているようだった。 「キルア?」 「はあっ、は、あん…」 「どうしたの?」 なんとかリアルに甦ったらしい彼の吊り気味の眼は長い睫毛をはためかせて俺に向かう。 「んっ…やだ」 「何が?」 「ゴンが、いなく、なる」 それが初めて、なるたけ長く精液を自分の中に留めておくための所作だと知れた。 キルアは中出しが好きだった。事後処理が面倒でも、おなかを下してもそうさせたがるのは単に快感が強いのだと軽く捉えてしまっていた。しかしそれは非礼である。 キルアの孤独や悲哀はこうして発作的に出るというところに落ち着かない。友人をつくること、失うこと、いつか殺めてしまうだろうことを恐れ戦慄いていた彼が、どうして恋人を恐れずにいられよう。 「ずっと一緒だよ」 孤独も悲哀も、どこまでも沈める底無し沼のようで俺にはとても理解しきれなかった。救うだなんて余りにも大それている。ならば、それらを全く消し去ることが不可能であるならば、水面を浮游するキルアを俺の全力でもってめいっぱい抱き留めておくことこそが必要な掬いだと思った。 end. |