未だピトーから何ら手が出ない焦燥に病まれる。気付かないはずがないのだ。昨夜あれだけ激しくしておいて、挙げ句ローターを差し出すサディストが格好のシュチュエーションを逃すなど言語道断。ヂートゥは涙を頬のラインに這わせながら、それでもいつか来るであろう褒美に期待感を募らせていた。 「大人二名ニャ」 「それは?」 「お金というらしいよ。餌の衣服からくすねた」 「慣れて、いらっしゃるの、ですね」 「妬いてくれてるの?何、経験の伴わない見せかけのレディファーストだよ。スマートに会計を済ませるのが紳士の嗜みだそうだ」 「あっ、いえ、そのぉ、素敵です」 無事フロントを過ぎて、右に折れるとすぐに水槽が目に入る。順路に反って左右に設置された小さなそれには、小魚や甲殻類、海藻などが入って一気に海を思わせる作りになっていた。 「おあっ」 「段差、気をつけて」 「す、すみません。驚いて」 そこを抜けると、一面に海を表現した大型アクアリウム。見惚れているとつい階段を踏み外してしまって、それをピトーが甲斐甲斐しく介抱してくれた。こんな扱い宮殿ではそうそう受けられたものではない。ヂートゥはにわかに感動を覚えていた。 「綺麗だニャ」 「はい、とても」 「美味しいのかニャ」 「それはいかがでしょう」 ここに群がった人間の方がよっぽど美味しそうだよね。ピトーが耳元でクスクスと笑う。ヂートゥはほんの僅かだが玩具を忘れることができていた。 「さっき言ってた魚、ここのレストランで食べられるみたいだよ」 「入られますか?」 「僕が買ってくるから、君はそこの椅子にでも掛けてて」 「恐れながら、お手洗いなど」 きっと効果音の付きそうな鋭い眼光が瞬く間に脳内を透かしてくる。わかっているだろうね、抜いたらお仕置きだよ、僕の許可なしに触っていいと思ってるの。そんなオーラだった。ヂートゥは股間に手をやって射精しかけたそれに鎮静を強いている。 「行っておいで。迷子にならないでよ」 「ししし、失礼します!」 ヂートゥは自己ベストでトイレまで駆ける。ピトーが愛おしそうにそれを眺め、ポップのメニューから“アボカドとスモークサーモンのサンドウィッチ”を選ぶ頃にはもう傍らにヂートゥがはり付いていた。 「食べよっか」 「こっちは何です?」 「ご一緒にお飲み物はいかがですかって言うから、オレンジジュースというものを頼んでおいたよ。美味しいのかはわからないけど、人間の間では割とメジャーらしいから」 「毒見致します」 「必要ニャい。それよりも、せっかくストローを二つつけたんだ。一緒に飲もうよ」 ひょろ長い透明の器から伸びた二本の白い筒。その先に吸い付いて、同時に摩訶不思議な橙色を体内に流し入れる。 「甘酸っぱい……」 「悪くないニャ」 二匹はいかにも人間らしいランチをぺろりと平らげるなり、いちゃいちゃと水族館を後にした。 |