「ヂートゥ、君はデートというものをしたことがある?」 ピトーの発言は物事を進展させるのに長けている。特に愛玩する、ヂートゥとの間柄においてはあらかた決定権を持つと言って等しかった。 「デート…ですか?」 「そう。最近解剖したレアモノの脳内に興味深い記憶があってね」 言われてみれば、普段図鑑や標本と言った専門誌を好むピトーには珍しく小説を手にしている。まるで薄気味悪い。ヂートゥはふと失礼を承知でそんな考察を抱くと、ねんごろにその踝から上目を向けた。 「ございません。何を指すのかもわかりません」 「そうだよニャー」 左手をヂートゥの頭にのせたまま、ピトーは熟慮する。ヂートゥは所在無さげに目を細め喉を鳴らして見せた。 「しようか、明日」 「お勤めはいかがなされるおつもりですか?」 「宮殿を囲う円が途絶えない程度の外出ならバレニャい」 「左様でございますか」 「じゃあ明日十時に、裏門のあたりで落ち合うのはどう?」 「当初からお伴出来るのでは?」 「野暮だよ、ヂートゥ」 デートとはそういうものニャ。ピトーが得意満面にそう言うものだから、ヂートゥはそそくさと部屋を後にする他なかった。去り際に渡された玩具の意図することがわかって身体が火照る。仰せのままに致します。ヂートゥはその夜を流動食のみでやり過ごし、翌早朝に浣腸を済ますと嬉々としてそれを突っ込んで出掛けた。 「おはよう」 「おっ、はよ、ごじゃい、ま、すぅっ」 「遅かったんだね」 「すみませっ、そのぉ、かなり早く、出て来たのですが」 「いいよ、遅刻したわけじゃニャいし」 それほど早くに準備を済ませていても、ヂートゥが裏門へ辿り着くには通常の倍以上時間がかかってしまった。おかげでピトーに遅れをとった。時刻は十分前と猶予があったにしろ、部下として言い逃れのできない失態である。 「僕も楽しみで早く着きすぎちゃったニャ」 「あり、がたきっ、幸せ……」 ヂートゥがもじもじと内股を擦り合わせているのを視界に見留めておきながら、ピトーはなんの気遣いもなく足を進めた。ヂートゥも慌てて後に従う。時折、浅い呼吸に混じって、あっあっと控えめな嬌声が猫口から漏れるのを聞いていた。 「きゃー!何あれ!」 街は人に塗れていた。そこ彼処に着飾った若者がたむろして居た堪れない。これは何度か街に出た経験のあるヂートゥだからこそわかることなのだが、人はみなキメラアントを奇人変人と騒ぎ立てる。時にヂートゥやピトーのようなとりわけ愛らしい外見を有する者に対し、仮装の一環たろうとフラッシュを浴びせ無防備に近づくことも少なくなかった。 「ケモミミカップル?」 「超可愛いんですけど」 「とりま写メっとく?」 「えーでもデート中に悪くない?」 「ってか彼氏の方顔赤くなってんじゃーん」 「彼女の趣味なんじゃね?」 「まじヤバーい」 すれ違う女共の過干渉が痛い。カップルとして見られたことへの多幸感は計り知れないが、反面、緊張にきゅんと引き締まったアナルが玩具を奥へ追いやるのを防ぐ手立てはなかった。 「ううンッ」 「ヂートゥ、急いで。イルカショーに間に合わないニャ」 「申し訳っ、ござい、まっせん」 |