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□too fast to love
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ピトー殿の職務は多忙を極めていた。宮殿内外を覆う凄まじい円の維持はもとより、部下への指図、町へやった念人形の操作、それに加えて王の招集が掛かればコンマ数秒で駆けつける敏捷性も求められる。寝る間も惜しい社畜人生だ。
一方、俺は歩合制で食事や能力にありつける日雇労働をやっている。王との繋がりは希薄で、各護衛軍ともその場限りの打算的な関係が多い。むしろ何故俺がピトー殿とこのような関係を築いているのか、甚だ疑問でさえあった。
したがって、しかるべきランデブーの比重も大きくピトー殿に偏っていた。俺は彼から何らかの形で逢い引きの誘いを受け、指定された時刻に彼の寝室を訪れる。求められるままに彼を受け入れ、気が済めば退室、気が向けば泊まりがけで行為に及んだ。まるで従軍慰安婦のようだが、これでけっこう相思相愛、彼の愛情は日々身を持って感じている次第である。そうなれば、恋人として俺も何かしてやれないかと思うのは至極真っ当だろう。俺がいることでピトー殿が重りを感じるようなことがあってはならない。
そして俺はシャワールームにいた。

「うう……ンッ」

にゅくにゅくと高そうなボディソープが先走りと混じる音を聴いた。前に全神経を集中させながら、空いた手でそっと後孔を撫で揉み解していく。爪先が沈むのを確認すると、上手く犬歯を使い、ビゼフの書斎から盗んだけばけばしいラベルのローションを開けた。

「あっ、は…くぅん」

と言うのも、幸か不幸か珍獣である俺たちはセックス以外のスキンシップを好まない。それ自体生物学的観点からみれば未だ謎に包まれているが、俺とピトーに関して言えば相性が抜群なのだと言ってしまえばそれで済むから恐ろしい。しかし前述したとおりピトーは多忙で、満足な休養を得られていない。以前、彼に楽してもらおうと俺の方が性行為の主導権を持ち、アクティブにプレイ進行を図ったが不完全燃焼に終わった。要は俺が重度のマゾヒストで、ピトーが重度のサディストなのである。

「あ、ううっ、ん……」

今日は一週間ぶりにピトー殿と会う約束を取り付けていた。二十六時と言われた時には正直驚いたが、それだけ短い時間でも俺に会いたいということ。逆を言えば俺には出来るだけ短い時間で彼を満足させる義務が生じる。俺がこんな丑三つ時に一人ローションを仕込んでいるのはそのためであった。

「も……無理ぃ」

指三本分仕込んだところで彼のものが欲しくなり、俺は勃起した性器を無理やりパンツに押し込んで部屋を出た。髪も身体も半乾き、パンツはローションでぐちゃぐちゃだが気にならなかった。俺は誰にも見られないよう、自慢の俊足で宮殿の廊下をとばす。無論一番の動機は早くピトー殿に会いたくて、だ。



「失礼します」

ノックをしても返事がないので声を掛けてドアノブを捻る。中は薄らと灯りがともって丁度いい室温を保っていた。すぐにでもことに及べそうである。

「ピトー殿……?」

しかしなかなかどうして現実は上手くいかないものだ。ピトー殿はベッドに仰向けで転がってあどけない顔を曝している。瞼は開いていない。どうやら自室に戻って横になった後、そのまま深い眠りに落ちてしまったらしい。綺麗な顔。睫毛は長いし、肌も陶器のようで神々しくさえある。近寄ると鼻と耳がぴくぴくと反応するのがまたなんとも愛らしい。彼に虐げられたらどんなに気持ちがいいか、俺はすでに知ってしまっている。

「ピトー…殿……」

彼を起こさぬよう、十分な注意を払い髪を梳く。俺に出来るのはそれだけだ。疲労困憊したピトー殿の眠りを妨げるなど言語道断。好きだから、愛しているからとてもできない。愛しているからとてもヤリたい。


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