シージョセSS〔U〕
□cravatta
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「シーザー。ネクタイ結んで」
ベッドに寝そべって煙草を吹かしていたシーザーにジョジョがそう言って近寄ってきた。
目の前に突き出された学校指定の深緑色のネクタイ。拳から視線を腕に沿って上げた先には、少しだけふてくされたジョジョの顔があった。
一人暮らしの小さなアパート。
狭い部屋の角に置かれたシングルベッドの脇からこちらを見下ろしているジョジョの姿は、
白いカッターシャツと派手な柄のトランクス一枚といった、かなり雑羽なものだった。
と、冷静にジョジョの佇まいを観察しているシーザーにしても半身に被っているシーツ以外は、
一糸纏わぬ生まれたままのという格好だったが。
「そんくらい自分で結べよ」
「できない」
「おまっ、高三にもなってまだ出来ないのか!?」
信じられない言葉に思わず体を起こそうとしたシーザーだったが、
突然空中から落ちてきたジョジョの足に腹を踏まれて再びベッドへ押し倒されてしまった。
「うぐ……っ」
容赦なく掛けられる体重に肺のすぐ下を圧迫される。
呼吸が上手く出来ず、酸素を求めて開いた口からは逆に間抜けな呻き声が漏れた。
「苦手なもんは仕方ねーだろ」
「じ…ジョジョ、足……」
「お前が無理矢理ほどいたんだから、お前が結ぶのが当たり前じゃないのぉ?」
更に圧迫感が増した。
苦しさに瞑っていた目をうっすら開くと、かなり不機嫌な様子の顔がぼんやりと見えた。
「む、結ぶ……」
「あぁ〜?聞こえねぇなぁ〜?」
「結ぶから足どけろ!」
肺に残っていた空気と一緒に叫ぶ。
同時にようやく腹の上から圧迫感が取り去られ、シーザーは枯渇していた空気を必死に体内に取り込んだ。
「最初っから素直にそう言えばいいんだよ」
荒い呼吸をつきながら天井を見上げる端から、ジョセフの勝ち誇ったような笑みが覗き込んでいた。
視線だけでその笑顔を見つめるシーザーの顔に突然何かが降ってきた。
「ぅぶッ」
慌ててベッドの上に半身を起こしながら顔に掛かる物を手で掴む。
引っぺがして目の前に掲げた手から、さっきまでジョジョが持っていたネクタイがびろんと伸びていた。
と、どさりという重い音を立ててジョセフが床に座り込んだ。
シーザーが座っているマットに両腕を乗せて、急かすような瞳でじっと見つめてくる。
「ったく……ほら、顎上げろ」
「ん――」
溜め息をついて親指で指示を出すと、ジョジョは促されるまま顎を反らして首元をこちらに向けた。
シーザーは持っていた煙草をベッドサイドにある灰皿に押し付けた。
ジョジョと向かい合うように座り直してから、手にしたネクタイをジョジョの首に回して慣れた手付きで結んでいく。
二年前まではシーザーも、毎日のようにこの深緑色のネクタイを結んで高校に通っていた。
しかし高校を卒業すると同時にぱったりとネクタイからは疎遠な生活を送っていたため、
結んでくれと言われた時は些か不安を感じていた。
が、やはり三年間欠かさず行っていた日課だけあって、頭ではなく体が覚えているらしい。
淀みなく動く自分の指に少しだけ感動してしまった。
「しっかし……自分で直せないで、よく三年間も耐えられたな?」
「朝ばぁちゃんに結んでもらったら、後はなんとでもなるもん」
大の男が胸を張って言うことではない。
ジョジョが無類のばぁさんっ子なのを知ってる身としても、思わず情けなさに首を捻らずにはいられなかった。
「ネクタイごとき結べねぇで、偉そうにすんなスカタン。つか覚える気はないのかよ」
「ややこしくて面倒臭いんだよなぁ。それにどうせ半年もしない内に要らなくなるんだし」
「さいですか……」
これ以上話を掘り下げることを諦めたシーザーは、手元の作業に意識を向けた。
ネクタイはほぼ結び終わっていた。後は結び目の形を整え、後ろに伸びた端を持ってそっと絞り上げるだけだ。
「おし、出来たぞ」
締め過ぎないよう注意しながら、結び目を首元に引き上げて完了を告げる。
出来上がりを確認するため少し体を離して眺めたそれは、少しだけ結び目の三角が大きすぎる気がした。
(ま、いっか。どうせ家に帰るだけなんだし)
まさか人に結ばせておいて文句も言わないだろう。
「どうだ?これで満足――――!?」
瞬間、信じられない事が起こった。
余りの事に呆然と固まってしまったシーザーの目の前で、シュルリという鋭い衣擦れの音が響く。
「やり直し」
元の長い布に戻ってしまったネクタイを再び握り締めたジョセフが拳をシーザーにつき出した。
「てめぇ!人がせっかく結んだの何で解くんだバカ野郎!!」
「長さのバランス悪すぎだろ。ばぁちゃんが結んでくれた綺麗なの崩したのはシーザーちゃんなんだから、ちゃんと元通りにしてよ」
悪びれる様子もなく淡々と告げる口調に、シーザーの怒りのボルテージは一気に限界値を振り切った。
「こっ、の……だったらなぁ!」
ジョセフの手からネクタイを奪い取る。
同時にシーザーはジョセフの腕を掴むと無理矢理己の座っていたベッドの上へ引きずり倒した。
「!?」
気を抜いていた所への不意討ちに、ジョセフは抗う事も出来ずマットに押し倒されてしまった。
おかしな体勢で顔面から倒れ込んだせいで、マットから体を起こせず四苦八苦する姿を一瞥して、
シーザーは暴れるジョセフの肩からシャツを引き下ろした。
布地に引っ張られて背中に寄せられたジョセフの両手を、シャツを絡ませて戒め動けなくする。
「な…っ!」
乱暴な行動に非難の声を上げたジョセフが背後を振り返ろうと体を捩らせた。
しかし両手を縛られた体は思うように動かない。
ベッドの上でのたうつジョセフの体に覆い被さるようにして、シーザーはジョセフの耳に唇を寄せた。
「大切なばぁちゃんに迷惑かけないように、お前でも出来る結び方を教えてやる」
吐息のように囁かれた言葉にジョセフの体が僅かに震えた。
触れた肌から伝わる震えに、シーザーの口元には知らず意地の悪い笑みが滲む。
浮かべた表情とは裏腹な甘い熱を含んだ声でもう一度、色を変え始めたジョセフの耳朶へ囁いた。
「ネクタイってのはこういう使い方も出来るんだぜ?」
「っぁ、ゃ…んン!」
濡れた声を上げて、ジョセフが身を捩る。
「ん?もう限界か?」
優しく問い掛けながらシーザーが内に埋めた指を動かすと、ジョセフは狂ったようにマットに押し付けた顔を振り乱した。
揺れる柔らかな黒い巻き毛。同じ様にジョセフが顔を動かす度に頭に巻かれたネクタイが揺れる。
「さっきヤッた時より感じてるみたいだな?目隠しされて弄られるのそんなに良いのかよ」
厭らしさを含んだシーザーの台詞に、横を向いたジョセフの口元が悔しげに歪んだ。
本来なら強気な光を宿した目があるはずの場所は、今は後頭部から伸びたネクタイで覆われている。
「これ、外し……あっ!」
「気持ちいいんだろ?」
後ろの窄まりに指を入れたまま、空いた手でジョセフの雄をゆるりと撫でてやる。
後孔から与えられる刺激に反応したそこは溢れた先走りでべとべとに濡れていた。
やんわりと掌に包み擦り上げると、ニチャリと厭らしい音が室内に響いた。
「ぁっ、ン、ふ……!」
上下させる手に力を込めれば、ジョセフの口から漏れる喘ぎ声は更に甘さを増し、ベッドの上の体が淫らに揺らいだ。
目隠しされた頭をマットに押し付け、腰だけをシーザーに強いられて高く上げて乱れる姿はシーザーの欲を酷く煽った。
誘うように揺れる腰に知らず喉が鳴る。
シーザーはジョセフの中を刺激していた指を引き抜いた。
蕩けた内壁を擦られジョセフの体が震える。
眼下に晒され腰を引き寄せた掌から伝わる震えは、そのまま腕を伝わりシーザーの体に伝播していく。
「っ……」
指の代わりに押し付けられた熱い塊にジョセフが小さく息を呑む。
いつもなら有無を言わせない強さで侵入してくる熱は、何故か今日は入り口の辺りでその動きを止めた。
「欲しい?」
悪戯を仕掛けるように尖端が入り口の上を撫でていく。
先程までの戯れで既にジョセフの内で生まれた熱は高まりきっていることは分かっていた。
その熱に煽られた自分の限界が近いことも。それでも意地の悪い言葉で焦らすのは、先程のジョセフの態度に対する仕返しだ。
「だったらちゃんと口でおねだりしてみな」
ジョセフからの返答はなかった。荒い息を付きながら、無言で顔をシーザーから見えないように背ける。
シーザーは答えを促すように腰をゆっくりと動かした。表面を撫でていた尖端が締まった入り口を通って柔らかく蕩けた中へと入り込む。
「あっ……」
狭い内部を軽く揺さぶる。
浅いところを往き来するだけの緩慢な動きにジョセフの体は先を促すが、
シーザーは求める場所には決して来てはくれなかった。
「ゃっ、も……早く…っ」
「言わないならずっとこのままだぞ?」
シーザーの腰が引かれ、抜けるギリギリの所で止まった。
繋がった箇所から生まれる満たされない快感に、焦れたジョセフがとうとう観念した。
「ぁ、やっ…抜かないでっ、奥……欲しい……っ!」
切羽詰まった声を聞いたシーザーの唇が満足気に弧を描いた。
ジョセフの腰を掴んでいた手に力を込めると、抜けかけていた自身を一気に前へと押し進めた。
「は、あぁ――――!」
充足感に満ちた悲鳴がジョセフの唇から溢れた。待ち望んでいた感触。
際奥を貫く熱は、それまでの緩やかな動きが嘘のように激しい突き上げでジョセフを追い詰めていく。
「ぁっ、ぁっ、ャッ……んンッ!」
「っ…ジョジョっ」
注挿を繰り返す度、濡れた内襞が挿入した自身に絡まり付いてくる。
貪欲に雄を受け入れ取り込もうと必死な淫らなジョセフの体。
いつも以上に甘く響く嬌声にシーザーはひどく興奮していた。ジョセフの名を繰り返し呼びながら、打ち付ける腰の動きを更に速めた。
「んぁっ、し、ざぁ…っ、ぁっ、もっ、と……!」
「ふっ、ン……っ!」
ジョセフの哀願に応えるように、シーザーは全てを奪い尽くす強さで内を侵していった。
固い切っ先がジョセフの感じる場所を掠め、シーザーを包む内壁が快感で狭まった。
僅かの隙間もなく密着した膜からシーザー自身が大きく震えたのが伝わった。
「ぅ……や、べ…ッ」
無意識に漏れた呻き声。
艶めいた声が鼓膜をくすぐり、ジョセフの脳を揺さぶる。
触れられてもいない立ち上がった自身から透明な液が滴り落ちた。
「ふ…っも……ィく……っ!」
「んぁっ、ぁっ、ァ、し…ざ、……んああぁぁ――――――!!」
更に激しくなった注挿に体を揺さぶられながら、ジョセフがシーザーの名を呼んだ瞬間、
内を攻めていたシーザーが大きく脈打った。
シーザーが吐き出した精が内側を濡らしていくのを感じながら、ジョセフも一際甲高い嬌声を上げて己の欲をシーツの上に放った。
「いい加減機嫌なおせよジョジョ」
「…………」
何度も繰り返した言葉を再び呟いて、シーザーは隣でシーツにくるまるジョセフを見つめた。
シーザーの声が聞こえていないようにジョセフは背を向けたまま動かない。
抱き締めた枕に顔を押し付けて一切口を開こうとしなかった。
その腕には、僅かに鬱血したような赤い痣が浮かんでいた。
己が結んだシャツのせいで出来た跡を眺め、シーザーは小さく溜め息をつく。
怒りに任せて始めた行為はジョセフの機嫌を大いに損ねる結果となった。
「そろそろ帰らないと、おばぁさんが心配するぞ」
すっかり暗くなってしまった窓の外を眺める。
早く家に帰さなくてはいけないと思うのに、ジョセフは一向に動こうとしなかった。
「おいっ。マジで――――」
「……ネクタイ」
くぐもった声にシーザーはベッドの端に放り出されたままだったネクタイに目を向けた。
先程までジョセフの目を覆っていたそれは、無理矢理に結ばれ引っ張り回されたせいですっかり型崩れしていた。
「俺の使ってたやつやるから、それで勘弁しろよ」
「……明日の学校は?」
「〜〜〜〜っ、分かった!朝イチで家に届けてやる!だから早く帰る準備を」
剥き出しの肩を揺すって帰宅を促すと、それまで微動だにしなかったジョセフが突然背後を振り返った。
「ばぁちゃんの結んだのじゃないとヤだ」
「な……っ!じゃあ一体どうしろってんだよ?!」
進展しない現状にやきもきするシーザーを尻目にジョセフはにっこり微笑んで呟いた。
「今日泊まってく」
「はぁ!?学校どうすんだよ?」
「休む。誰かさんのお陰で腰が痛いしね〜」
文句を言いかけたシーザーの口が閉じる。
「明日ネクタイ取ってきてよ」
シーザーの返事を待たずにジョセフはそう言うと、ベッドの上に仰向けに寝転がって目を閉じた。
「少し寝るから。起きたらご飯よろしく」
「ぐ…っ」
さっきまでの萎んだ態度はどこえやら。ふてぶてしい姿にシーザーは思わず拳を握る。
しかし原因を作った張本人であることを必死に言い聞かせて、座っていたベッドから腰を上げた。
「あ。家に電話もね」
夕食の準備のためキッチンに向かうシーザーの背中に投げられた気の抜けた声。
一瞬ピクリとシーザーの体が反応したが、すぐに分かったという返事をして歩き出した。
従順な態度に満足したジョセフは今度こそと目を閉じた。
「………」
眠りにつくジョセフを黙って眺めるシーザー。
ほの暗い怒りの炎を宿した瞳でベッドを見つめるシーザーの胸に生まれる確固たる野望。
(次起きたら――――――)
また縛って犯し倒してやる。
終.