小噺

□スキスキッス!
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おれには大好きな先輩がいる。


カッコよくて、優しくて、強くて、大好きだ。


彼女が居ないのが不思議なくらい、素敵な人。


まぁ、居ない方がおれにとってはラッキーなんだけど。


噂をすればなんとやら!


校舎を出ると、校門に向かう先輩を見つけた。


「凍夜せんぱーい!」


名前を呼んで走り寄ると、くるりと振り返って優しい笑顔を見せた。


ふわりと香る、甘い香り。

凍夜先輩の家は洋菓子店で、先輩の作る洋菓子が主として売られている。


毎日のようにお菓子を作るから、甘い匂いが染み付いてしまったのだろう。


『ああ、仗助。今帰りか?』


「ハイッス。凍夜先輩、今日は遅いんスね。」


『そうなんだよ…先生に捕まっちまってさ。最悪。』


困ったような笑みを浮かべてそういう先輩。


いつも洋菓子を作るため、早く帰る先輩。


部活とかには入ってないらしい。


『そうだ、仗助!今から時間あるか?』


「もちろんっス!」

『新作のケーキの案を考えてて、やっと出来たんだ。
だから、仗助に試食してもらおうと思って。』


言いながらおれの手を引っ張って校門を出る先輩。


う、うわ…顔があちぃ。
心臓が破裂しそうなくらい脈打つ。


新作の案が出来たことがよほど嬉しいのだろう。


急ぎ足で、半ば走る先輩がなんだか可愛くみえて、また心臓が大きな音をたてた。



数分でついた先輩の家。大きくはないが、綺麗な装飾の施された洋菓子店。



『ただいま!』


「おかえりなさい…あら、仗助君じゃない!いらっしゃい、久しぶりね!」


「お久しぶりッス。」


凍夜先輩の母親に頭を下げると、優しい笑顔が見えた。


きっと先輩は母親に似たのだろう。温厚で、笑顔の素敵なところも。


『新作案が出来たんだ!仗助に試食してもらおうと思って連れてきた!』


「あら、そうなの?私も食べたいわ!」


『もちろんだよ、母さん。今日は丁度店も午前中までだったし、ゆっくりしな。』


いつの間にか紅茶をいれていた先輩が、座るように促して紅茶を置いた。


『ま、二人で話でもして待っててくれ?少し時間かかるから。』


店の奥に消えた先輩を見送って、紅茶を啜る。美味い。流石先輩。



「仗助君」


「ハイ、」


「貴方、凍夜のこと好きでしょ?」


「ッ?!っげほっ!…な、なんで…?!」


意地の悪そうな笑みを浮かべる先輩のお母さん。


「それくらい分かっちゃうわよー!何年生きてると思ってるの?」


今のおれ、きっと顔真っ赤だ。

恥ずかしい。


青春ねぇ、なんて笑われてさらに顔が熱くなる。


それからしばらく話していると、凍夜先輩が出てきた。



『おまたせー。食べてみて!』



目の前に置かれたフルーツの彩りが綺麗な小さなタルト。


「凍夜、私、奥でもらうわね。せっかく仗助君が来てくれたのに邪魔しちゃ悪いわ。」


「え、いや…?!」


『そう?いいけど、あとで感想聞かせてくれな。』


先輩と入れ替わりに、今度は先輩の母親が奥へ引っ込んだ。


い、今2人っきりになったらおれ、恥ずかしくて話せねぇよ…!!



『仗助、食ってみてくれ。』


「あ、いただきます…!」


フォークで小さく切って、口に運ぶ。


サクサクのタルト生地と、ストロベリーの甘さがふわりと口の中に広がるムース。

そのうえに生クリーム、たっぷりと飾られたフルーツ。


先輩らしい、繊細で可愛らしい飾り付け。


甘すぎないその味が、おれの好む味だ。


『どうだ?』


「…すげぇ美味いッス!!
先輩が作るケーキの中でも、おれはこれが一番好きッス!!」


自然と笑顔になってしまうおれ。


そうすると、先輩も優しい笑顔を浮かべた。


『良かった…。
実を言うとこのケーキ、仗助のために作ったんだ。』


「へっ……?」


『フルーツの飾りも、ムースも、全部仗助をイメージした。』


先輩の笑顔の中に見える真剣な眼差しにおれは顔に熱が集まるのを感じた。


「え、あ………なんで……」


『決まってんだろ。
お前のことが好きだからだ。仗助。』


いつもはあまり聞かない先輩の低音。

なんとも言えない色気にくらくらする。


ああ、やっぱり凍夜先輩はかっこいい。


「おれも……先輩のこと、……好きッス…!」


思い切ってそういうと、先輩はくしゃりとおれの髪を撫でた。


すごく幸せな時間。先輩からは相変わらず甘い匂いがした。





___


おまけ(?)↓



その後、先輩と話しているうちに分かったことだけど、


先輩はあのときのおれの好き、を友情的な意味だと思っていたらしい。


そうじゃないことを伝えると満面の笑みで抱きつかれた。


その日におれは先輩の家に連れてかれて、行くところまで行ってしまったのだった。


腰が痛い。けれど悪い気はしなかった!





end

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