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□bEAty spOtO
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「待った?」

「え――」

知らない男の声がした。

「いけないなぁ。強引に誘うなんてさ」

人を小馬鹿にしたような、軽薄で間延びした声で、男に笑いかける。

「ねぇ?そう思わない?」

腰に手が回され、自然と見上げる形になる。
わたしに絡んでいた男は、まだ立ち去ろうとしない。

「…合わせろ」

耳元で囁かれる。助けてやるということらしい。

「…わかったわ」

男に聞こえないように返して、背に腕を回す。

「遅いわ」

拗ねたような表情をして、胸に表情を埋める。あの男と寝るよりずっといい。

ああいう強引な男は、押しても引いても逆効果だから。

「ごめんごめん。ちょっと仕事が長引いちゃってねぇ」

「待ってたのよ?そうしたらあの男が絡んできて…怖くて」

視界が滲む。怖かったのは本当。

だって、前に一度、危ない目に遭ったから。
またそうなったらと思うと、頭が真っ白になった。

「さて、どうする?」

「……チッ」

「退け!」と怒鳴りつけ、乱暴に店を出て行く。

涙は留まることを知らず、止めどなく流れていく。

ハンカチを取り出して化粧室へ行こうとすると、知らない男が立ち塞がる。

「そんなんで化粧室までたどり着けるの?」

へらりと笑う声に、はっと気づく。
答えは目に見えている。化粧室に連れ込まれたら終わりだ。

でも、いつまでも抱きついている訳にもいかない。

どうしようもなく、とりあえず顔を上げようとすると、
ぽすっという気の抜けた音と共に、顔を戻される。

「ねぇ」

どういうつもり、という意味を込めて、じっと見つめると、深い意味はないよとまた笑った。

「落ち着くまで貸してあげるよ」

そう言いながら、私の頭を手で押さえつけていて、私は離れることをやめ、言葉に甘えることにした。
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