短編集

□対言葉禁止条例レジスタンス
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言葉禁止条例
※これは、某中華麺's様のある寸劇に出てくる「言葉禁止条例に国民がクーデター」という台詞から派生した作品です。



夜、星明かりが煌々と光る。
背伸びした高い建物も、鬱蒼と茂る木々もないこのカバルマダの町は、星々を見るにはうってつけだ。



そんな煌めきに背を向け、小さな灯りを放つ洋灯火《ランプ》を手に、身体を縮こまらせて歩く若者が一人。


町の中心部から離れた貧民街。その片隅にある、カーバー6番街。6番街といえば、治安の悪さで有名だ。
若者は、路地から路地へと、人目を避けるように、歩みを進めていく。


辺りを橙に照らす洋灯火と、蒼く光を散りばめる星達。

徐々に狭くなっていく通路。通路の隅には、下水が流れている。若者は汚水に丈の長い外套が濡れぬよう、気を配りながら、進んだ。


ようやっと突き当たりが見えてきた。
頭の中で、これまで収集した情報の断片を復唱する。

「(言葉禁止へのレジスタンス…言葉の自由を取り戻す…彼等の基地…路地のどん詰まりに、隠れ家が…)」

―あった!!
感動で思わず声が出そうになった。慌てて、洋灯火を持っていない方の手で口をふさぐ。そして、辺りを見回す。
―大丈夫。



突き当たりにあつわたのは、古い木製の扉。ひび割れなどの損傷の激しいそれは、しかし重く、力強く見えた。

若者は震える手を伸ばす。
かつて、同胞に教えてもらったように、

5回、拳で叩く。
2度、指で十字になぞる。

「(…それが仲間であるサインだ…)」

―彼は、もういないけれど。
込み上げそうになった涙をせき止めたのは、綺麗なソプラノの声だった。



「我等の声は」


「っ!!」

―嗚呼、本当だったんだ。言葉禁止条例へのレジスタンス団の噂は。
先程とは別の理由で潤み始めた瞳をごしごしと乱暴に拭う。

すぐに答えない若者を訝しんだのだろう。透き通るような美しい声は刺を含み、威嚇するように言い放った。

「政府の者なの?そうでないなら、今すぐ合言葉を。じゃないと、撃つわ」

「っ決して嗄れない!!」

攻撃的なその台詞に驚き、若者は赤子の時分以来、初めて出す声で合言葉を叫んだ。何分、物心ついてから一度も意思をもった声というものを出して
いないのだ。どれくらい出せばいいなど、全く見当がつかない。


扉がびっくりした、というように勢いよく開き、伸ばされた細い手に腕を捕まれ、中に引きずり込まれた。

バタン、と扉が閉まる音がすると同時に、遠くの方で、何かが叫ぶのが聞こえた。恐らく、人外獣外の何かが。

しかし、そんなことすら気にならないほど、若者は興奮していた。
―本当の本当に、来たんだ!此処が、レジスタンスの隠れ家!!

周りには、自分と同い年位の少年少女や、武骨な大男、稀に見る美貌を持つ女性など、十人にも満たないが、レジスタンスの仲間がいるのだ。

ぼうっと、夢見心地の若者の背に、鋭い叱咤の声が落ちた。


「あなた、馬鹿なの!?」
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