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□以心伝心
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『以心伝心』


「はぁ……」

 誰もいない部室で、霧野は深い深いため息をついた。
というのも、珍しく神童と喧嘩したのである。普通のカップルならよくある話だが、霧野にとってはそうではない。
いつもテレパシーのように神童が考えていることがわかるのに、今日に限って不機嫌な理由が分からない。
勝手に神童の寝顔を撮ったわけでもないし、約束をすっぽかしたわけでもない。
まったく心当たりがないのに、どうしたらいいものか。
むやみに謝っても、かえって火に油を注ぐかもしれないし。
そんなことを考えていたせいか、簡単なパスにつまずいて膝を擦りむいてしまった。
今日に限ってマネージャーがいなくて、部室で1人手当てをするなんて、 本当についてない。
グラウンドでは神童が怒っているのだろうけど、このまま戻らないのも怒るだろう。
さて、いつ戻るか。今でしょと言えるほどの度胸はない。
ベンチに座ってずいぶん経った気がする。時計を見ると、ここに来て20分は経っていた。
いいかげんまずいなと思っていると、後ろで入り口が開く音がした。
「霧野センパーイ。」

「なんだ、狩屋か。」

思わず体を固くしてしま
ったのに、拍子抜けした。

「なんだってヒド過ぎっす。」

「悪い悪い。」

「神童先輩心配してましたよ。」

「うわ…やっぱり神童怒ってる…」

「なんでそうなるんすか!?」

「だって本当に心配してたら自分で来るし。やっぱり、朝から不機嫌だったしな…」

「普段と全然変わらないっすけどね。なんで不機嫌か分からないんすか?」

「分かれば苦労しないさ。いつもは聞かなくても分かるんだけど…」

「うわ、出たよ夫婦みたいな感じ。」

「お前たちって喧嘩するか?」

「しますよ。わざと怒らせていない時は聞かないと分かりませんけど。」

「え?狩屋は輝に理由を聞くのか?」

「先輩たちみたいに夫婦じゃないんで。いつでも聞かないで分かるっていう方がびっくりです。」

「そうなのか?」

「そうなんです。たまには聞いてみてもいいんじゃないんすか?」

迷惑そうな顔をしているのに口角をニヤリと上げた狩屋が部屋を出る。
そうだ、聞けばいいのかと納得したはいいが、どう聞けばいいのか分からない。
第一声は何ならいいのか。まったく思い付かない。
悩んでいる暇はないが、よくよく考えなくては。
そうこうしている内に再び入り口が開く音がした。

「悪い狩屋、すぐ行くから。」

「霧野。」

「し、神童!?」

最悪だ。さんざん考えてきたものがパァになってしまった。
「怪我、大丈夫か?」

「う、うん。大したことない。」

「そうか、ならよかった。」

気まずい空気が部屋を流れる。今、ここで男を見せねば。

「なあ神童。」

「何だ?」

「俺、なんかやったか?」

「え…?」

「神童、何か怒ってるから。」

神童は豆鉄砲を食らった
ように目を丸くして俺を見つめた。
俺もそれ以上のことは言えなくて、無言の時間を時計の秒針が刻む。
神童はなぜかロッカーに向かい、中から何かを取り出した。
俺にごめんと言いながらそれを差し出す。見ると、それはかわいらしい封筒。
中身を見なくても分かる。似たような物は何度も貰ったことがある。

「下駄箱に入っていたから、つい取っちゃって…」


「はぁ…そんなことか。」

「そんなこと!?」

「神童より好きなやつなんているはずないじゃん。」

「う…」

「ああもう、神童可愛い。」

「怒らないのか?」

「怒るわけないじゃん。嫉妬してる神童可愛い。」

霧野は神童を隣に座らせて、涙目になった神童を慰めていた。
一方、狩屋も不機嫌さを隠しきれない輝を慰めていた。

「ごめんって!」


「マサキくん、わざと行ったんですよね?」

「あれ?バレちゃった?」

「マサキくんなら、最初から神童先輩に行かせることも思い付いていたはずですから。」

「さっすが俺の彼氏。」

「褒めてません!」

「ごめんごめん。輝くんが嫉妬してくれるのが嬉しいんだもん。」

「うぎぃ…」

「ごめんね、歪んでて。」

「知ってます。だから、あまり僕を虐めすぎないでください。
マサキくんよりも僕の方が寂しがり屋なんですから。」

「分かってる。でも、拗ねた輝くんも好きだから。」

結局、その日はろくな練習にならず、4人は三国に正座で怒られた。



******

最後にさりげなく出てくる輝くんに全てを持ってかれました。
輝くん可愛い。もっと拗ねてください。

蘭拓やマサ輝も大好きですが、霧野と狩屋の絡みも可愛かったです。やっぱり男の子の友情っていいよね←誰だ

詩歌さん、素敵な作品をありがとうございました!

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