Gift
□変な奴
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今日は日曜日。
もちろん、学校もなければ部活もない。
そして俺、剣城京介は、チームメイトであり恋人である松風天馬の家に来ていた。
天馬は変な奴だ。恋人のことを変な奴呼ばわりすること自体変なのかもしれないが、天馬は変な奴だ。
俺が家に来たからといって、ゲームをするわけでもお菓子を食べるわけでもなく、ただただ俺に抱きついている。さっき、なぜ抱きつくのかと聞いてみたら、剣城だからと答えになってないような答えが返ってきた。
でも、そろそろ暑くなってきた。部屋にエアコンがついてるとはいえ、今は真夏だ。こんなに密着していればさすがに暑くなる。
「なぁ、天馬、そろそろ暑くなってきたんだが………」
「じゃあ、エアコンの温度下げる?」
「いや、お前が離れれば下げなくてもいい」
「え〜ヤダー!!」
離れてほしいことを伝えるべく天馬にかけた言葉は空しくも彼の心まではたどり着けなかったようだ。
「だいたいなんで抱きついて来るんだよ……」
「え〜?剣城だからだよ?」
「………それ、答えになってない。」
「うーん……別れても後悔しないように…かな?」
「………は?」
突然出てきた言葉に俺の頭は考えることを一瞬放置した。
………別れる?
俺と天馬が、別れる?
…少なくとも、俺は天馬と別れる気なんてさらさら無い。と言うか、そんな中途半端な気持ちで付き合った覚えはない。もっと言うと、そんな素振りを見せたことは無いはずだ。
じゃあ、天馬が?
今はこうやって優しく接してくれるけど、ずっと別れるつもりだった…?
「……俺、帰るから」
そう思うと、なんだか空しくなってきて、一刻も早くこの場を立ち去りたい気持ちになった。
「え?ちょ、剣城っ!?」
天馬は、いきなりの俺の態度に驚いて困っているようだが、そんなの知ったことじゃない。
「ちょっと待ってよ!……どうしたの?急に…」
「別に、ただちょっとそういう気分になっただけだ。」
「剣城?ウソでしょ!?本当のこと教えて?」
「っ!……別れるんだろ。」
「えっ……?」
言ってしまった。天馬は驚いて固まってるけど、もし本当だったら……?
「うん。そうだよ。だから別れよっか。」
なんて言われてしまったら、俺はどうすればいいのだろう?
ものすごいスピードで押し寄せる後悔と自己嫌悪の波にのまれそうになって、それから逃げようとしたとき、
「違うよ!それは剣城の勘違い!!」
なんて言って、波にのまれかけた俺に手を差し伸べてくれたのは、その波の発端である天馬だった。
「は?勘違い?」
いやいや全然意味わかんないし。勘違いもなにも別れるって言っただろ。
………なんて思ったけど、言わなかった。というより言えなかった。天馬に先を越されたから。
「だから、俺と剣城が別れるってゆーのは、事故にあっちゃったり、遠くに離れちゃったりすること!!」
「……は?」
「だから〜!俺と剣城が、離ればなれなっちゃっても、後悔しないようにたくさん甘えとくの!!分かった!?」
「……なんで?」
「なんでって……思いたくないでしょ。『もっとたくさん、一緒にいればよかった』なんて。」
「っ!!」
その言葉を聞いた瞬間、なぜか、俺の顔は熱くなった。
天馬が真顔で変なこと言うからだ。きっとそう。天馬が俺を大切に思ってくれたことがわかって安心したとか、決してそんなのではない。
だいたい、
「縁起でもないこと考えんなよ、バカ。」
「えへへ…ごめんね。でも、本当のことだから。」
俺の恋人は変な奴だ。
サッカー好きすぎるし、アツすぎるし、縁起でもないこと考えるし。
でも、そんな変な奴にほれてる俺はもっと変な奴なのかもしれない。
空の色が真っ赤に染まる頃、こっそりそんなことを思ったのは、天馬には秘密の話。