物語
□明日にも向けない
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WC後、俺は主将になった。
けれど今吉さんみたいにうまくいくはずもなく、青峰とは喧嘩ばかりの毎日。ただ前と変わったのは、青峰が俺に暴力を振るわなくなったことぐらい。あまり部活には顔を見せないが、前よりかは随分マシになった。気分の良いときはフラリとあらわれて、誰もが息を呑むプレーを(青峰にとったらただの練習だが)これでもかというほど見せつけた。
俺はお前らと違う。
そう言われているようで、俺は胸の中にある小さな痛みを我慢した。この思いは、帝光中学の頃の光り輝くアイツではないと、青峰が桐皇に来た時に知った痛みと少し似ている。目の前に転がるボールを拾い上げて、手のなかでくるりと回した。時刻は8時30分。とっくに部活は終わっているから、もうまわりには誰もいない。軽くボールをつくと、静かな体育館全体に音が響いた。世界にたった一人になってしまった気分だ。
(よくわかんねーけど…こーゆーのが孤独っつーのかな)
ならば、青峰は。こんな一人の世界にずっといたのか?強い奴がまわりに誰もいなくなって、ずっと孤独を感じていたのか?
(けど………今は違う)
アイツには火神という、自分を初めて負かしてくれた奴がいる。光と影。元相棒の黒子もいる。アイツはもう、一人じゃない。
(それなら…孤独なのは、俺だけだ)
俺にはアイツみたいな才能はない。今吉さんみたいな、いい主将になれる自信もない。素直になれない俺は、頼ることもできない。
(俺には何もない…)
「………何やってんの」
「うわぁあぁあ!!?」
「ビビりすぎだろ。てかうるせぇよ」
誰もいないはずだった体育館にいたのは、相変わらず生意気な褐色の肌をもつ後輩。
「あ、青峰………?」
青峰大輝だった。
「何してんだよ、こんな時間まで。部活もうとっくに終わってんだろーが」
「うるせーよ、テメーには関係ねーだろ!!」
「ぁあ?関係あるかねーかは、俺が決めることだし」
どんだけ俺様なんだ、コイツ。警戒心剥き出しの俺は、ただ睨みをきかせるだけだった。
「…お前こそ、何しに来たんだよ」
「あ?俺か?」
「そーだよ、お前だよ!!てかお前、今日も部活サボりやがって!!いい加減真面目にでろよ!!」
「うるせーな………」
「だいたいお前はっ」
「若松サンさー」
「………あ?」
「そんなに俺に部活来てほしいわけ?」
なに言ってやがるんだコイツ。俺が何のために毎回毎回呼びにいったと思ってんだ。もうやだコイツ。なんかめっちゃムカついてきた。
「当たり前だろ!!」
「………」
「だいたい何のために俺が毎回呼びに行ってると思ってんだ!!お前はエースなんだからちゃんと練習しやがれ!!次負けたら、ただじゃおかねーぞ!!」
俺は大声で叫んだ。青峰はびっくりして無言になっている。俺の迫力に気圧されたか?ふん、ざまぁみやがれ。
「………若松サンさぁ」
「は?」
「いや、なんか………あー」
「んだよ、ハッキリ言いやがれ!!」
珍しく青峰が言い淀んでいる。なんだか初めて見る顔だ。いつもは人ひとり殺せそうなぐらいの目線が、左右に揺れている。
「え?言っていいわけ?」
「だからハッキリ言えっつってんだろ」
「マジで?いいの?」
「今さらお前に暴言吐かれてもなんともねーよ。気になるだろ、言いやがれ」
「ふーん………あのよ、」
不意に青峰は、俺との距離をつめた。喧嘩しているときは意識していなかったが、かなり距離が近い。
「若松サンってさ」
青峰の目は、試合中にしか見ることが出来ないくらいの真剣な色をしていた。突然のことに、ドキッと何かが跳ねる。青峰と初めて会ったとき、プレーを見せつけられたときと同じ、小さな痛み。
「可愛いよな」