物語

□明日にも向けない
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「………は?」
「だから可愛いって」
「いや…………え、は?」
「若松サン可愛い」

待て、ちょっと待て。よくわからない。今俺コイツに可愛いって言われた?このガングロ俺様アホ峰に?え、なんで?………え!?

「は、はぁあぁあぁああああぁあぁあ!?」
「うるっせー!!」

あまりの出来事に俺は叫んだ。再び体育館に声が響きわたる。青峰はいつも寄せている眉間の皺をさらに深くして俺を見た。

「な、なん………おま」
「若松サン顔真っ赤だぜ」
「え………」
「あ、その顔可愛い」
「は!?お前何ふざけたこと言ってんだ!!か、かわ、可愛いとか!!なんだよ、からかってんのか!?」
「は?本当のことだっつの」

しれっとした顔をしてのらりくらりかわす青峰は、どことなくいつもと雰囲気が違う。

「………嬉しくねぇんだよ」
「でも顔赤いぜ?」
「ちが、その、部活が」
「とっくの昔に終わってんだろ?」
「うっ………」

いつになく饒舌じゃねーか、コイツ。つーかコイツとまともにこんな長い間言葉を交わしたこと事態がはじめてだ。なんつーか、緊張する。

「若松サン………」
「な、なんだよ」

さっきから思ってたけど距離が近い。もうなんか、鼻がくっつきそうだ。それに心臓もうるさい。

「わり、やっぱ無理」
「は?………っん!?」

気がついたら、唇を塞がれていた。すぐに青峰の唇は離れたが、俺はパニックに陥っている。顔から火がでそうだ。あちぃ。

「なにしやがっ………」
「わりぃ。…なんとなく?」
「なんとなくで男に、キスすんなよっ!!」

ごしごしと唇を擦った。強くしすぎたせいで唇が心なしか痛い。

「やめろっつの」
「ああ!?」
「傷つくだろ、くち」

優しく、青峰は俺の唇を撫でた。触れた指にビクリと肩を震わせると、青峰は目を細めた。

「………この続きはまた今度な」
「っ、はぁ!?」
「若松サン」
「………」
「俺、若松サンのこと嫌いじゃねーぜ」

そう言い残すと青峰は体育館からでていった。また体育館は静けさを取り戻した。

「なにしに来たんだよ………」

俺はボールを拾い倉庫に戻す。そのときに、倉庫の一部の窓ガラスに自分の顔を見た。

その顔は、今までの人生のなかで一番情けない顔をしていた。

「くっそ………」

なんなんだよ、もう。俺をこれ以上かきまわさないでくれ。お前のことで赤くなったり、悩んだりしたくない。だって俺は


お前に対しては臆病だから

この思いが、辛いんだ。
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