僕を愛する君が好き

□新しい家族
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父さんから再婚するという知らせを聞いたのは去年のこと。
絵麻はそのことを自分のことのように喜んでいたけど、正直なところあたしは余り喜べなかった。

再婚相手の美和さんには13人の男ばっかりの『兄弟』がいるから。
あの事故以来、絵麻以外の人を大切だと思いたくないあたしには苦痛でしかない。

再婚には賛成。兄弟と同居には反対。
そんなあたしの意思とは関係なく兄弟達との同居が決まってしまった。


そして今日、その兄弟達の住む家へと引っ越す。

最後の荷造りを終えて学校帰りの絵麻と落ち合う。
とても嬉しそうにしている絵麻を見ているとあたしはどんどん気分が降下していった。

「はぁー。憂鬱…。」

「お姉ちゃんそんな顔しないでよ。せっかく兄弟が出来る特別な日なのに…。」

思わず漏れた言葉にしっかりと反応する絵麻。その顔は苦笑に歪んでいる。絵麻のそんな顔を見てしまうと罪悪感が沸いてくる。

「"特別"ねぇ…。あたしには絵麻が居てくれればいいんだけど。」

「お、お姉ちゃん…。」

結構本気で言えば軽く引かれてしまった。それはそれで少し寂しい。




そんな冗談とも本気とも取れないことを言いながら歩いていると目的のマンションに着いた。
『サンライズ・レジデンス』と書かれたこの場所が今日からあたしと絵麻の家になるのだ。

ボーっとそんなことを考えながらマンションを見上げていると今まで大人しかったジュリがキーキーと鳴きはじめた。

「わっ!? ビックリした。ジュリどうしたんだよ。」

「なんかキョーダイと言えどもオスなんだから気をつけろとか…。ジュリ、分かったから落ち着いて!!」

「あー、うん。ジュリの言いたいことは分かるよ。絵麻はあたしが守るから。ね?」

苦笑しながらそういい、ジュリの頭を撫でる。そうすると何が不満だったのかキーキーとまた鳴く。

『そうは言ってもお前も女なんだぞ、りぃ!!』

「あー、今のは分かった。あたしも女なんだぞとかでしょ。大丈夫だって、あんまり関わるつもり無いし。」

『しかしだなぁ…!!』

「もう、ジュリ落ち着いてってば!!」

いつまでもキーキーとうるさいジュリをなだめる絵麻を放っておいてインターホンを押す。

『はい。』

聞こえてきた落ち着いた涼やかな声に思考が停止する。

『どちら様でしょうか。』

「あ、すいません。今日からお世話に、と言うよりも兄弟になる者です。」

『あぁ、少々お待ち下さい。』

そう言われたので後ろを振り返ると闘争心丸出しなジュリと緊張で固まった絵麻がいた。
そんな対照的な二人を見て思わず噴出してしまい、絵麻にそっぽを向かれた。

そうしているとドアが開いた。そこには頭のよさそうな、それでいてどこか融通の利かなさそうな人が居た。

その人は絵麻を見て一瞬驚いた顔をした。本当に一瞬。見間違えかと思うくらい。

「はじめまして。私は次男の右京です。どうぞ、お入りになってください。」

「はじめまして。あたしは姉の理深、こっちは妹の絵麻です。よろしくお願いします。」

「よ、よろしくおねがいします。」

エレベーターに乗り込みながら緊張している絵麻も一緒に挨拶をする。
未だに固まったままの絵麻には苦笑しか出てこなかった。

右京さんの話によると5階が家族の共有スペースになっており、リビングやキッチンがあるそうで、それぞれにはマンションの一室が個人の部屋として与えられているらしい。

「ちなみに理深さんの部屋は4階の降りてすぐの右手、絵麻さんは3階の降りてすぐの左手、それぞれ一番手前になっています。」

絵麻とは部屋が離れると言うのに少し不安になる。ジュリもいるからそんなに心配はいらないとは思うけれども…。

そう説明されている間にエレベーターは5階に到着していた。この階にはドアは1つ。本当にこの家族しか使わないらしい。

「すでにお聞き及びかとは思いますが、うちは男ばかりのむさ苦しい兄弟なんです。
いろいろと不都合はあるでしょうが、みんなで協力するので、ご了承下さい。」

そう言いながら右京さんはドアを開けた。

期待と不安。そんな表情の絵麻を横目で見ながらあたしの心情はこれからのことに希望を見出せないでいた。
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