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□だらず!!〜消えたパ〇ツの行方〜
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相変わらずの此奴とのこの距離にして…その間を吹き荒ぶ生温い風。
吹き飛ばされそうに、その身を盛大に煽られながら振り向く涼しげな横顔が、淡い光に濡れる。
軽く手すりに凭れながら脚を組み、手持ち無沙汰気に指先で鍵盤を叩いている。
ふと浮かんだ、奴の気に入りのナンバー。さわりだけ吹いてやると、裏のコーラス部分が見事に再現されて返ってきた。
前に、いまいちだと苦笑された後で頑張って練習した甲斐もあり。今ではその苦笑の後に…なんと奴のキスにまで適うという腕前ともなった。
だがしかし今はまあ、それはさて置き。

―――おい、何してんだ

伊達の煙を踏み消して、顔を上げると。目にしたその光景に間髪入れずに当人へ突っ込む。

―――みょー………んっ?

先程までと同じく、マントを大いに煽らせながら。而して迎えたのは…この屋上より下界を眺めている怪盗の、突き出された白い尻だった。
いつもなら、手すりに背を引っ掛けるようにして大きく仰け反らせて――。

―――ぐえぇぇっ……気持ちい、い…
等とやっていて、やはり迎えるのは白い脚と…上着の捲れ上がって見える青い腹チラ。

―――…の逆ver.だろ……バック突っ込むぞこの野郎が
―――うわ……げっひー…んっ。両手脚ダラーンは気持ちいーんですよね
ぐぐもった息遣いでそう尻が答える。しかし――まさか先客がいたとは。目の前の白からちょっと視線をずらした先に転がる数多の黒、黒黒…。
フン。それならば、と己の持つ此奴で以て即座に両手脚だらーん状態にしてそのお望みを叶えてやる所だが。
ケッ。これでは何とも落ち着かないじゃないかと、黒服を跨ぎ避けながらその涼し気な尻をキッと睨んだ。
当人はと言えば…呑気に尻をフリフリさせながら脚をバタつかせている。まるで――。

――きゃっきゃ☆…キュッキュッゥんv
尻が躍っている…踊る!尻大〇査線フラグとも言うべく大事件と、特筆すべきではなかろうかこれは。

―――あーヤバ…食らいつきてぇ…
そそ…と近づくと、間近にあるその奇跡に胸が躍る。キュウンとなって苦しい。

―――と、ここで忘れちゃならないお約束っそれは――カ〇チョーだ!!
ニシシ。男の浪漫且つお茶目なこの悪戯に中てられた相手の、その後へと想像を膨らませる。
恐らく前代未聞だろう…成功した暁には涙ながらの快挙とも言えようもの。

而してそんな…本気でバック取ってやろうか等という、不穏な工藤の気配を感じ取ったからか否か。
その手が触れる寸前で、ヨッコイショとばかり尻がずり下がり、白い上体が持ち上がってきたのだった。

――すはっ……この、スケベが
スケベって。見るからにそそり立たせてくれた相手に、非は全くないのかと。
而してちろり睨まれ、工藤は渇いた笑いを浮かべつつ。そうしてプイと向けられた背中から、その不機嫌ごとをギュッと抱き締める様に腕を回した。
一瞬ピクッと振れた肩へと首を預けては、それからまるで睦言を囁くかの如くに…すぐ耳元で告げる。
前々から気になっていたこと。最近加速するばかりのその思いの内とは裏腹に…思い描くのは澄んだ月だったが。

―――なあアンタ…もし俺がオメーを捕まえたら、どーすんだ?
―――どうするって…何が?
ブワァッと広がる白を手繰り寄せながら、更にキツく抱き締める工藤に。
相手はふわり綻んでは、そうしてその頬にスリと寄せる…赦した感も甚だしくに、今度は工藤の耳を食んだ。
そうして、何?と酷く甘く誘ってくる声音に、どぎまぎさせつつも。
やはりこの身の奥底に巣くうものと言えば、果てしなく暗く狭い…生暖かくて危うい己でしかなく。

―――いや、もしその時がきたとしても…させてやれねーかもしれねー…からさ
そう継いで、相手の胸辺りできゅっと結んだ手を、そのままゆっくりと上へ移動させていった。

―――ふーむ。そーね…
存外に心許なさが滲む掠れた声とその動きに、感慨深気に相手は相槌を響かせる…而して。

―――ッオ…イ!?
その一瞬フッと力の抜けた白い肩がガクンと沈む――あろう事か手すりすらも手放した躯はそのまま綺麗に傾斜した。
酷く緩慢なスローモーションのそれ…に見惚れる間もなく。のし掛かるだろう総重量を支えるべく再び腕に抱いたその時。

―――ニヤァ。…っくくく。相変わらず下らないことを言う男ですね
ぐるんと反転させ、工藤の胸元辺りよりせり上がり来る顔がそう紡ぐ。
スッと触れてくる…絹の恰も涼し気な動きに、汗ばむその指が剥がされていく。僅かな息遣いを聞くや、スルリと肩を滑る白い指先。強い力に腕を引かれるままに、飛び込む羽目になったのは、白い大きな――。

―――危なっ…!
―――っ…ご心配なく
打ちつけられる筈の工藤の背に回された腕。此方の意図を完全無視してくれた相手は、流石に一瞬息を詰まらせた様だ。
せめてものと咄嗟に伸ばした腕を逆に掴まれ、その不敵さを称えた口許を睨む。

―――何してんだ…
―――ヘタな探偵風情に飼い殺される程、私は甘くはありませんよ
―――んなこと、知ってるっつーの
片腕を地に着け、見下ろす工藤を、下敷きになった怪盗は而して逆に探偵をどこまでも高見するかの様に。
その視線すら捉えられずにいる工藤を嗤いながら。やがて掴んだままの工藤の手を、徐にその場所へと導く。

―――何の真似を…
―――努々そんな薄ら寒い仮初めの悲劇を憂うより、いっそここで終わらせてみたらどうですか?
くつくつ。仰け反らせた…蒼白く光に塗れる肌に掛ける手の感覚が揺らぐ。怖ず怖ずと片方の手を離し、ころころと鳴る其処へとあてがえてやる。
フン、とばかり聞こえてきた満足気な息が工藤の手に掛かる――と同時に。

―――なっ…テ、メ!
―――そう、やらないならこっちが……抱きころしちゃうかもだぜ?工藤

――は?今何言った此奴
ポカーンとなっていた所、ガッシと背に回された腕にハッとする――直後。
―――っ…く、うぁっ
ギュッと締め付ける様に腕に力が込められ、これ以上ない程密着した…その身体の上に倒れ込む。
どこにそんな力がと思う程、押さえ付けられた其処からギシギシと軋み出すのを、荒い息として熱く吐き出した。
考えてみると、こんなに長い間、而も熱く抱き締められるなんてことはなかった。
これは喜ぶべきことなのか――最初、手をその涼し気な喉元に持っていかれた時ですら。真っ先にその口の端に滲む血を拭おうと動いたものだ。
しかし、思いがけず伸ばされた腕に引かれるまま、相手の顔前へとのめり込む。
体勢を持ち直す前に、がっちりホールドされ、焦る指先は其処を僅かに引っ掻いた。

―――止せって!
ぐぐぐっと弛むことのない腕の中、些かばかり憔悴した面持ちで。衝動的に工藤は其処へと手を這わせていた。
くっと軽く吸い付く様な肌の感触に…思わず確かめる様に指の腹で押してやる。

―――…もっとちゃんとして下さいよ
この世で最も惹かれていて、最も得難い相手の腕の中にあってしても。
そこに安らぎも憩いもない只…この男が此処にいるということをひしひしと感じるだけ。

―――いいのかよ…加減できねぇかもしれねぇぜ?

―――随分と弱気ですね…今だって結構堪えてる癖に
―――何とでも言え…けど、一つ断っておくが――。
まあ確かに。肩がミシと軋み上がっている気もしないでもない。が、その所為で未だに力が入らないという訳でもない。
ちっとも解せない。何故こんな真似をするのか、己は己で…この相手の急所に両手を置いているのか。
まるで本当に締めころすかの如く力を発揮する相手の腕の中にいること。
今までで知り得る限りの、最も近づいたと言えるその距離0の空間は。こうして、噴き出す脂汗と、焦燥感と得体の知れない罪悪感とのせめぎ合いにもつれ込んだ。

―――っは…ぁ゛っ
―――どうして…こうなった?

みっともない程にガクガクの手で掴んだ…相手のそれは、案外細いものであると知る。
指を絡め、食い込ませる様にグッと握り込むと、締め付ける腕から力が抜けていくのが分かった。
面白い程にあっさりと解放された身体に、渾身の力を込めてぎちぎちと締め上げていく。
今となっては只、完全にそっと回されているだけとなった白い腕は。その脈打ち立てる音が直に身体に響く様に感じていた。
ビクビクと震わせる首筋が、こんな時ですら蒼白く淡い光に艶めいた。
力を入れた先から、身体の彼方此方で悲鳴が上がっていたが…不思議と指先が弛むことはない。
ギリと、相手が歯噛みし始め、掠れた息が低い嗚咽に変わり。そうして苦しげに喘ぐその口の端より、ツウと零れ出る唾液が工藤の手をも伝った。

―――が…っは、ぁぁっ…あ゛あ゛っ
小刻みに震え、見開いた双眸をパチパチと瞠目させながら、逃れようと頭を振る。

―――これでかなり…好きなんだぜ俺
KID…と、ポツリ呟いてみる。時に、その相手はゲホゲホと盛大に咽せ返しては…虚空に喘ぐ姿が、痛々しく映えた。

―――……っ
気のせいか…がむしゃらに喘ぎ散らすその口が、その名を紡いだ様な気がしたのは――幻想か。
はたまた都合のいい夢か。この、例えようもないとびきりの悪夢に…没した月の皮肉な嗤いが、まるで地の底を響せる様だ。

―――すっげーな…
世に云う、それはまるで感嘆に値する光景だった。只の一度たりとも向けてはくれなかった、その双眸が。今は真っ直ぐに己を凝視している。
今までとはまるで反対に。此方の意思を探る様に…息も絶え絶えに。虚ろに陰るその双眸は、而して内なる工藤を捉えんとする。



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