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□K*快K←S
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「・・・つ、……!」
暫く意識を飛ばしていたカイトは、霞むその視界を広げた先に映る姿に、愕然とする。
「どう…し、て……お前っ」
痺れ切って、最早何も感じない両腕の間に埋めていた顔を上げ、ジッと見つめる。
・・・何でこいつが此処に…!
思わずギリッと奥歯を噛んだ。
そして体中から一気に込み上げてくるものを必死で抑える。
再びうつ向き、脱力した体がうち震えているのを見とめた彼の人は、言い様のない怒りに全身を染めている様だった。
場の空気が、隠されることのない殺気に満たされていくのが分かる。
コツ、コツと近付いてくる音を耳にしたその数秒後。
ふわり漂う、愛しくも懐かしい匂いにカイトは包まれていた。
途端更に押し寄せくる後悔と、どうしようもない安堵の心地に、カイトは息もままならなかった。
肩を抱いている手の温もりが、この身には痛くてたまらない。
「何…で、来たんだよお前」
「・・・」
「いつも冷静な…アンタにな、ら、…分か、るだろう…?」
顔を上げることもないまま、血を吐く様に声を絞りだす。
そんな頭をそっと、撫でられた…その手も僅かに震えている。
・・・泣いてるのかよ、アンタ…アンタでも泣くことあんだな。へへっ。
顔を上げ、そして彼の人を初めて間近に見る。
何かを言おうとして口を開けば、その唇にそうっと当てられる彼の人の指先。
何処かひんやりとする、それがカイトは好きだった。
「もう喋らないで、カイト」
・・・何だか…見ていてお前の方が痛々しいよ、KID。
・・・私の怒りや、愛しみの程が…あなたに分かりますか?
・・・こんなに、傷だらけで、あちこち腫れて…っ!
カイトを囲んでいた男達は、躊躇なく振るわれた彼の人の手によって既に総崩れであった。
目の前の、たった一人を除いて。
・・・また、貴方ですか……工藤。
━━━ポンッ☆
━━━カチャリ…ッ、ジャラジャラ、ガシャーン
「・・・っぁ!」
戒めを解いた瞬間、トッ、と前に倒れ落ちるカイトを、KIDがしっかりと胸で受けとめる。
「・・・ごめん、KID。ごめんなっ…ごめ…」
やっとこの腕に抱くことができた、この上ない存在をギュッと抱き寄せてやる。
心許なげに、それでも応えて来たカイトの温もりに、KIDは漸く表情を緩めた。
が、それも一瞬のこと。
・・・許しませんよ、工藤…絶対にね。
徐に上衣を脱ぎ、カイトの肩からかけてやると、ピクリと反応した。
不安げに此方を見つめる、暗く沈んだ瞳から態と目を反らしてKIDは立ち上がる。
「・・・おいっ!キッ…!?」
空かさず掴んだ手は、優しくカイトの手を握り返す。
けれどそのままさりげなく、いなされ、交わされて…去り往く彼の後ろ姿を、カイトは只見送るしかなかった。
フッと振り向いた、唇に人指し指を当てた彼の人の顔はとても綺麗で。
その慈愛に満ちた眼差しで、KIDはカイトに静かに諭す。
━━━━!!
そしてゆっくりと、自ら元凶の方へと向かって行った。
━━━━止めろよ。
「よう、KID。やっと決心がついたか?」
━━━━止めてくれっ!
「・・・こんなことを為さるなんて、とても残念ですよ、工藤?」
睨み上げてくる、そんなKIDの腕を掴み寄せると
「漸く俺のものに…KID」
さも愛し気に、肩を抱き寄せてその手をとった。
「KIDよせっ!…行くなよ!おいっ!!
━━ゲホッ…ゲフ…っク、ショウ!」
・・・何でこうなるんだよ!アンタが来たら、今度こそ彼奴は…!
歯噛みして、身悶えする程に後悔した所で、現状は変わることはない。
叫んで呼び留めたくても、その声は先ほどKIDに盗まれてしまった。
間もなく、この視界も閉じてしまう…。
「カイト、ゆっくり体を休めなさい。後で迎えに来ますからね」
いいコで。そう告げて間もなく、KIDは工藤と二人そのほの暗い部屋を後にした。
「・・・っ……」
手を伸ばそうとしても届く筈もなく。
人知れず、涙を伝うカイトの頬をうっすらと月明かりが照らすばかりだった。
+ + +
「卑怯もの」
「何とでも。構わねぇよ…KIDが手に入るなら、もう何でも」
「何処をどう間違われて、こんなことになったのか…
私は理解に苦しみますよ、工藤」
カイトがいない!と思った瞬間、目の前は真っ暗、暫しの間は思考は停止していた。
悪く行けばKIDの人生休止とも成兼ねないゆゆしき事態だったのだ、今回のことは。