K■

□※KK×☆※
1ページ/1ページ








ブルームーンの夜。明かりを全て取り払った部屋の一室で戯れるのは、これまた或種稀な存在の二人。
煌々と映し出される影。シーツに色濃い陰影を作り、淡く、儚げに浮かび上がる相手の輪郭を辿るのは、先程黒から白へ変わった大怪盗。

「ん…はっ…ぁ」

仰向けて、蒼い光に顔を濡らしているのは未だにモノクルを嵌めたままのKIDだ。
そうっと触れてくる、繊細且つ大胆な指先を軽く食めば。口腔一杯に広がる芳醇な薫りにうっとりと目を細める。
四肢は極めて緩く、肌触りの良い純白の海の中に沈ませたまま。その身に一糸纏いもせずに晒された肌は、うっすらと上気に染まっていた。
どうやらそれは、今素肌をふわり彩る薔薇の花弁と。それと共に振り撒かれた月の名…菫色に薫るジンのせいだけではないらしい。

「なんって気障な…」
自身も流石にここまではしないだろうかと過ぎらせる。サラサラと花弁を散らしながら、フワリと落とされる唇の感触が妙にいじらしい。
可憐で儚げな色合いのそれの持つ、初恋という詞を振りかざしてきては、いきなりシーツへ沈められ。

――貴方と初めて逢ったのは、月の見えない夜だった
二度目の満月という稀な日だけに。蒼い空間にすっかり露わに浮かぶ白い肢体を、するり撫で上げられて…甘く反応を返す。
が、次の瞬間、軽い感触と共に鼻を擽るバラの香。大量の花弁が振り撒かれたかと思うと、今度はピチャリと振りかかる液体に、しっとりと肌を艶めかせ。
滴る額をペロリと舐めていった、悪戯の色を宿らせた瞳を、濡れた睫の隙間より見上げる。
クツクツと嗤いながら、その唇より零れた雫がKIDの鼻先をつうと伝った。
それを当然のように唇で掬っては、今更のように浮かぶ相手の酩酊に堪らずに啄む様なキスを仕掛ける。

――今宵、二度目の奇跡に導かれ、私は再び貴方に出逢う
蒼白い光の中に横たえた肢体に巡らす幻想的物語。
同じく淡く、しかしはっきりと。浮かび上がらせた白い身体は、この後にも延々綴られるだろう不埒で、限りなく艶めく応酬へと、その身を深く沈ませていった。







――はい、おしまい。チャンチャン
――短っ!

「えっ」
「コラ、このちみっコが。これからがいい所だってのに…何してくれてんの」
「いーんだよもうこれでっ!…つーか俺にンなこと(ナレーション)させてんじゃねーぞ!バーロ!」
「えー、だって折角の記念なのに探偵君が居ないと…」
「そうそう」
「いや、だってまさか…キッド達に誘われて行かねー理由はねぇし。けどな…普通はここで俺がさぁっ」

――………ほほうw
――…………へ?
今何か、得体の知れぬ悪寒が走った…気がする(素)

「ふむ。こーんな特等席にいてもまだ不満だと…ならば」
「たまには恐い目。みてみますか?」
「……は?」

――せーのっ…

「「そりゃw」」

「………っは、……ん何の冗談だ。これは」
がぱりっ。と上からキッドが覆い被さり、更に下からはKIDの腕によってがっちりとホールドされて身動きがとれない。

――今回だけは特別に、私達が名探偵を***せて差し上げましょうv

等と同じ声色で、二人意味ありげに笑みを浮かべつつ。とんでもない提案をしてきたのだった。


「ふっ…ざけんじゃね…っ!?」
「でも。そうですね…折角ですからここはちゃんと名探偵にお任せしますよ。…出来ればですけどw」
「じわりじわりと責め立てられて…名探偵、本気で泣いちゃうかもしれませんねぇ」
「るっさい…っい!?」
パァンと眼鏡を弾き飛ばされ、目を瞑ったまま、今度はグイと顎を引き上げられて思わず目を見開いた。
からかいを含んだ口許が至近距離にズンと迫っている。が、この状態では此方からは何も仕掛けられない。
出来ることと言えば。唯々、己の一番の好物を目前に見とれることだけ。
クッと歪ませた小さな唇をペロリと舐め上げ、キッドは漸く手を無造作に放した。再び頭が力無くKIDの胸へと収まる。

――チッ。ここは健気に傷ついた色を見せるべきか…否、無いだろ…畜生っ…馬鹿がっ

「何ですか?…そんなんじゃこの先が思いやられますよ?ほらほらっ…ちゃんと強請ってお見せなさいw」
「キッドさん酷いw…では、早速私も…はむ。」
「……なっ!!」
そう言いながら耳を食んでは、ぎゅうぎゅうと腕で締め付けてくれる。
而してこれはこれで…美味しいのかもしれない。が、そうも言ってられないのが身上。
後ろから、それも片手で器用に腹辺りまでをはだけられて流石に身を捩らせて抗う。

「ちょっ…何しやが――」
顔半分を覆うひんやりとした感触にゾクリとした。
ゆっくりとキッドの顔が近づいてくると、その普段と違えた雰囲気に思わず息を飲む。

――本気か…本気なのか!?こいつらは
更にするりと下の辺りの冷えを感じると…初めて脳内に警鐘が鳴り響く。
そうこうしている間に。口内に差し入れられた白い指が、僅かな唾液をも絡め取っていく。

――泣いて強請ったら止めてやるよ
唇の動きだけでそう伝え、さっとそれを握られては…探偵はぐぐもらせたまま、愕然とした表情で返すしかない。
而して尚も迎えるのはえげつない笑みで。恐らく多分、それは変わることはないのだと思う。

――……それならば

「フッ。甘いぜキッド…そう易々と言ってやれるタマじゃないっての、俺は」
「でしょうね」
「それにこんなハンデだらけの俺相手に、今両親痛み捲りだろ?あ、あんた等じゃなくてな」
「「……っ」」

――お。ちょっとは…効いてる…とか?

一瞬力の緩んだKIDの腕を素早く外すと、腹の辺りに散らばる花弁を一片掴んで、未だに此方を凝視する紫紺の前に翳した。

――………?

「何企んでるか知らないけど」
「………っ!?」
「たった一度でも、それを悔いる様なことがあるならそれはテメーの罪だ。ちゃんと償え。大事な奴等を泣かせることだけはしてくれるなよ。その瞬間から俺はあんた等を見限って、是が非でも元に戻ってどこまでも、どこまでも追い詰めて、俺の法律で雁字搦めにして徹底的に暴いてやるからな。覚悟しとけ」

不意に振られる探偵の手。そしてそのまま、何か言いたげなその口が開く前にと。
小さな手は、徐にキッドの口許へと例の花弁をピタリ押し当てた。
その真っ直ぐな蒼で、蠱惑に秘めし紫紺を射抜きつつ。淡々とそう告げると、今度は止まったままのキッドの左手を取り上げては、己の頬へすり寄せる。

――オメー達が信じてる限り、俺もオメー達を信じてる

「存分に堕ちてきな、お二人さん。この俺に」
好きだぜ。そう言いながら、頬を撫でる顔は嫌に誇らしげで逞しくさえあるのだから、厄介この上ない。

「…ぷ………っ…相変わらず、気に障るガキだこと…っ、ぉっあ!?」
「…………ガキは余計だ。ンな面しやがって………あー、もうっマジ酷え!テメー等ちょっとこっち来いこのっっ!!」

じぃっと見つめ合わせていた、小さな探偵の、その視線に食いついてきたキッドの頭をグイッと引き寄せる。
そうして後ろにしたKIDの方を向き、クイッと顎で示すなり、KIDもまた数回の瞠目の後に小さな腕の中へすんなりと頭を収めた。

――うわぁ…やっぱりか
――何かもう…いいんじゃありませんか…?

そうだ。このちみっコは…そう言えばいつもそんなことを言って甘やかすのだった。
この真っ直ぐな瞳が射抜いたものこそが、真実。
側にいてそれを目の当たりにしていたからこその、今回のこの仕掛けられた悪戯に、探偵はまだ気づかない様だ。

たった年に一度きりの機会。全てを嘘にしてくれるから、構わないと思ったのも。
またその口から、聴きたかったというのも全部。

全ては嘘で本当だった。


「嘘のまた嘘は本当なんだぜ名探偵」
「今日位好きって…返してくれてもいいのにな。…ははっ…ぁー…」
「好き。……でも嫌いでもないよ?」
「んだよそりゃ」


――だって〇〇〇るから



幸いにしてこの詞だけは、まだ嘘だとバラされていなかったりする。






##
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ