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□多勢に〇〇〇 【闇編】
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「最初っからアンタは嵌ってたんだよ。この場所のことを聞いた時から」

久遠の声が頭に響く。 

じりじりとにじり寄る夥しい気配。淀んだ空気に眩暈すら覚える。それでも決して微動だにはしなかった。

「さあ、アンタは耐えられるかな?俺等はころしはし無ぇけど…しんじまった後のことは責任持てねーからな?
何しろアンタ相当綺麗だし、さぞかし…だろうぜ。まあそんときゃ安心しな。跡も残らねえからよ♪」

クスクス…。ひたひたと湿った音とその振動にすら蝕まれる様だ。あまりのおぞましさに身の毛が弥立つ。

「下衆がっ」
「そう。俺等ってばこれで結構えげつないんだぜ、悪ぃな…でも」
 スッと久遠が右手を持ち上げる。黒々とした影が、もうすぐそこまで迫っていた。

「腸が煮えくり返ってるってのは、マジだからな」
 その手が振り下ろされるのを合図に、中心への距離が一気に詰められあっという間に黒で覆い隠された。


 月は無く、只々闇が色濃くその手を広げる。その中心で、どす黒い塊がしきりに蠢めいていた。

容赦なく伸ばされる無数の手。


個々によって全身に噛みつかれ、引きちぎられんばかりに身体が軋み上がる。

或いはその黒い一塊によって持ち上げられた身体を打ちつけられ、引きずり回され…。


その後はもう殴る蹴るだののオンパレード。

最早悲鳴の一つも出なかった。

それは暫くの間続き…文字通り盛大に弄られた。




 しばらくして再び輪が開くと、そこには変わり果てた…白を纏う者の姿があった。

 埃にまみれ、顔は傷だらけ。マントと服はズタズタに引き裂かれ、露わになった肌には彼方此方に痣がチラついている。
 腕には小さな噛み跡を幾つも残し、その腹には一体何発食らったのか知り得ない。

呻き声一つすら上げることなく、体をくの字に曲げてひたすら耐える様に横たわっていた。
投げ出した四肢には激痛が走ったが、一切から目を閉ざした今は…大したことには感じない。
 自らギッと引き結んだ口許は、ずっと噛み締めていたために切れたその血で唇を濡らす。


 怖ず怖ずと顔を出した月がまた、KIDのその希薄な気配を浮かび上がらせた。
 より一層増した蒼白さに映える傷痕が痛々しい。

カツカツ…。徐に聞こえてきた足音が直に頭蓋骨に響く。誰かが輪を割り入って此方へと近づいて来る。

「…っぅ…」
「へぇ。よーく持ちこたえたじゃねぇかハンターさん」

――…なめんなばーか。

幾つ修羅場潜ってきたと思ってやがる。ハンターKIDの名は伊達じゃないんだっ…ての。

 不覚にも目が霞んできていた。僅かに頭を傾けて身じろいだ途端に突き上げる嘔吐感。
目を臥せて必死に耐えるも、虚しく―――。

「ゲェッ…ガフッ、がっ…ハァぁ、ハァッ」
「うっ、おいマジかよ血だらけじゃん…流っ石よくこんだけのモンを」

 久遠の瞳が一瞬揺らいだ気がした。

「ぐっ…、」
 今目の前にしているこの男は――最初に見たときのあの印象に近いだろうとKIDは感じた。
 上目遣いで睨みつけながら…ああ、まずいことに身体すら支えられないまでに消耗しているらしいと気づく。

「っはぁ…っはぁ、ゼェッ、ハッ…」 

―――ヤバい、熱が。
 重力に逆らえず再び地面に沈んだ身体を、KIDは苦しげに折り曲げる。
 息も荒く、身体全体で呼吸する彼のそんな様を久遠は黙って見つめていた。

―――っぜぇ悪ぃかよ。何にでも構わず手ェ出して貪り尽くすアンタ等とは違う。俺は、これで生きてんだよ。

喉に残る血の味が鬱陶しかった。
今更白々しく言い逃れようなんて思わない。

「へぇ…」

 口惜しいことに全く力が出せない状況にある訳だが、しかしそれに反して高まるのはこの疼き…。プロとして獲物を前にしたときの感覚のそれだ。

…目の前にいるこいつを…どうにかしてやっちまえないものだろうか。
 そんな考えに密かに胸をたぎらせていると。

「ちょいタンマや。久遠、伝言もろたで」
「――何?」

…さっき一番に腹に食らわされた色黒の奴、か。

「なあ」
「…」
「アンタまだ勝つ気でいるとか?」
「…どうかな」
「ボスが会いたいって言ってる」
「…は、くばが…?」
「気安く呼ぶんじゃねぇぜ…!」
「がフッ…!く…っ」

胸の辺りをもろに痛みに抉られて、KIDの意識は遠くへと転がっていった。




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