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〜*KK※25禁※
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いつものように、闇夜に緩やかに羽を広げて佇む白い影。

今日はまたえらく冷たい風が吹きすさんでいるようだ。
深夜の屋上の床はかなり冷えており、靴の底より直にジンジンと痛みさえしてくる。

「はぁ…。つーかマジでっっさっみー!」

空振った…ポケットの中身を弄んでいた手を引っ込め、フェンスにぐてーっともたれ掛かかった。所謂両手脚ダラーン状態の、KIDお得意のみょーんvの逆ver.である。

「ぐぅぇぇ…気持ち、ぃ…」

闇の底視界に広がる、チカチカと騒がしい光達に目を細める。そうして溶けゆく白い息を暫し見送っていた。がしかし。

―――ビュオオ…ッ

――うぶるるっ。さ、寒い!

今日に限って貼る式カイロも、厚着も一切していないなんて。
手も既に結構キていた。晒した首元に当たる風が頗る痛い。

ここまで芯から凍えているのは…しかして、それだけの理由でなのか。
マントを捲き上げ、背中を冷たく風が抉っていく…もう、勘弁だ。

――とっとと帰ろう…

きゅっと顔を上げて体勢を整え。お疲れ様でした〜これにてサヨナラ〜とでも言わんばかりに、そのままコンクリを蹴り空へとダイブしようとした…矢先。

「…ちょっ!…なななっ…何を…(うぐっ)!?」

「早く出せっ」


―――バタンッ。ブゥゥー…ン

「う…んぐっ!……っはぁ、はぁっ。なっにするんですか!いきなりっ」


―――ゴメンゴメン、いやあその…今急に仕事が入ったからさ

「は?今から!?イヤですよ。冗談…っていうかその前に何故カンペ?」

目の前にいる癖に。と明からさまに不機嫌なその顔に、頭をかく…先程帰ろうとした怪盗をいきなり抱え上げ、車へと押し込んで拉致紛いの行為をかました数人のスタッフ達。
皆幾分か申し訳なさげにカンペを回している。

―――怪盗の喋りのみ入れたいから…って、何それ

「絶っ対帰りますからっ!今日はあのちびっ子君も、探君も誰も居ない寂しい撮りで…しかもこの寒い中またなんてっ」

全身でイヤイヤをする怪盗に
、最もですと頷く者をペシッと叩いた別のスタッフが、ペッと新たに差し出したもの。そこには。

「キッドも既に現場にいます……マジですか……」

―――行きます?

「…………とりあえず向かって下さい。仕方ないな」

―――助かります。というかもう着きました

「早っ!」

―――そのまま入って構わないそうです。はい、これを受け付けに見せて、突き当たり左にある階段で48階に行って下さい

「何で階段なんですか!?急いでるのでしょう?」

―――エレベーターは故障していて。この時間ですから、エスカレーターも既に止まってます





「……じゃ、ねぇぇえ!!!」

なら何故受け付け嬢がいるんだ!?

今でやっと18階め。持ち前の体力で息吐く暇もなく駆け上がること…どれ位だろうか。
兎に角まだまだ遠いことだけは確かだ。御陰で深夜この気温で汗だくだ…一体何の仕打ちか。

「でも、キッドが居るというのならば…行くしか」

一番に会いたいと願う彼の人。最近は家に寄ることも殆どないままだった。
携帯では時々話す程度で…まぁ今の時期は仕方ないのだが。

本当にバタバタしている。けれどこんなにも切羽詰まったスケジュールは初めてだった。

――でも何で俺一人だけ?他のスタッフ誰一人も付かないってどういうことだ…クソ

ドッキリってやつかもしれない。一瞬そう過ぎらせたが…。

「めげる……何か私めげそうですよキッドさん」

メイクさんも居ない…。ちょっと否かなり今の状態は酷い筈。
ああせめて、シャワー位浴びさせて欲しかった。マジでヤバい。

「……ぁう。…キツ」

息を整えつつ上ること、漸く43階まで来た。が、ガクガクの膝がどうにもならずに立ち竦む。

――あと…ろっか…い。うぅっキッド、さん…


フラリ傾いた身体。しかし次の瞬間その肩ごとをギュッと抱きしめる人物がいた。

「大丈夫かKID。あと少しだ。ほら乗れっ」


「ぁ、…きっど…?」
「お疲れ様の所マジでゴメンな。はいこれ」

気が付くと、優しい背中の上にいた。安堵して思わず顔を埋め、懐かしさに身を震わせる。
スッと手渡される薄い冊子に目をやりながら。

「……私今、ちょっといろいろヤバいんですけれど」
「大ー丈夫だ。何の心配もいらないから」
「……眠い………っ」
「ハッ…、ハッ…いいよ寝てても。少し休みな」
「…ん。そう…さ、せ…て……」

――悪ぃことしたな。こんなに汗だくになって…ああでも。何か…結構これも

いいものだ。と、発する熱から香ったそれに密かに頷いた。
寝息が項を擽る。熱っぽくてぐったりした最愛の人をしっかりと担ぎ、キッドはせっせと48階を目指す。


「今晩はー。宜しくお願いしまーす」

シーンと何も返って来ないことに些か不安を覚えつつ。
キッドとKID両名は漸くスタジオ入りを果たした。
時刻は深夜午前1時になろうというところ。

「ん…」

背中で堪能する夢心地が。この後にも続くかは…果たして。
それはキッドすら知り得ないことだった。
そして漸く48階に到着。差ほど広くないL2スタジオ。控え室はそのすぐ隣にあり、着替えとバスタオルが用意されている。

「はぁっ。はぁ…あっちー…って、マジか」

―――ごゆっくりv byスタッフ一同

結局今回はこの二人とあと…ゲストだけらしい。

――カメラ…これ回ってんだろうな?

一応、それらしい声が向こうから聞こえてきてはいるが。

「……ふぅ。とりあえず…」

ゆっくりとソファにKIDを寝かせる。カクンとそのまま力なく沈んだ…疲れの滲む表情を眺め、そっと頬を撫でた。

「これを終えたら暫く休もうな」
「……温泉、て本当ですか?しかも肉鍋付きって…こんな時間なのに…」
「起きたか。少しは休めた?」
「…あまり気持ちは良くないのですが。だってベトベト…クシッ!」
手にした冊子がパサッと音を立てる。愛しい感触にうっすらと目を開け、ゆっくりと身体を起こしてKIDは身をふるっとさせた。
「あー、それじゃ冷えるわ。早くそいつ脱いで着替えちまおう」
「……寒い。気持ち悪い…無理!」

――あー、始まったか

「しょうがないなぁKIDさん。なら私が着替えさせてあげますよ〜」
「…はい。頼みます…なるべく早くお願いし」
「んん…っちぅ。っちぅ。っちぅ…」
「ちょ、ちょっとちょっとちょっ――!」
「何?」
「何じゃないでしょうっ…こんなヤバい身体なんか…辞めてくれ、頼むから」
「KIDさんの身体はいつだってヤバいけど?……あー、何そんな気にすんなよ。寧ろ凄く」
「駄目ですって。頼みます、ちゃんと唯脱がせてくれるだけでいい…って言ってるのに…っ」
「はむっ。んーっ。…確かにこれから普通にするしなぁ」
「はい!?…温泉番組でそういうことしちゃ駄目でしょう!」
「いや。深夜放送だし…何か25禁だったかで…」
「……イヤです。今夜は貴方と唯いいお湯を頂いて、唯美味しい物を食べて帰ります。帰りますよ私はっ」

というか、一体何故こんな仕事を引き受けねばならないのか?

「仕事は選んで下さいっ」
「お言葉ですが、KIDさん。前に話したときはちゃんとOKしたじゃないですか。それに今回は…貴方がこの間から熱演している役への、アンチファンを黙らせるいい機会なんですよ。全ての権利はスポンサーが握っています。その大手を抱き込めるかどうかはKID。貴方の手腕にかかっているのです!」


そう言えば、前に…。


―――KIDさん!仕事見つけてきましたよ♪
―――仕事…?何の
―――温泉番組らしいけど、まだ日程が決まってないって
―――二人でですか?久しぶりですね。でもまた何で……温泉??
―――何か抱き合ってるだけでいいらしい
―――マジですか?…怪しいな
―――美味い鍋付きだってさ。OKしちゃうよ?
―――どうせまたボツるでしょうけど。分かりました


「あー…あれ通ったんですか。えらいギャラ良かったですよね」
何やらきな臭い大人の事情絡みらしいが、プロ意識を刺激するキッドの激励には、彼はピクリと反応を示したようだ…多分。

「……眠、い」
一瞬そう呟いた後、キッドの腕の下に潜り込もうとする。スヤスヤとそのまま寝入りそうな彼の人の様子に嘆息しながら、キッドは徐にその身体に手足を絡めるようにしてきつく抱きしめた。
「せーの…っ」

―――ビッ……ベリベリビリッ!!

「はぎゃあぁ!!……うっ」

プッ、とくわえていたシャツの切れ端を捨てたキッドは、引き裂いた衣装を取り去ると着替え用の薄手のシャツに手をかける。
チラと目をやれば、それを悔やむ程の…露わになった美しい生き物のそれ。久々ながらこんな明るみに晒されていることが罪ではないかと思う程。
それは全く以て目の毒だった。

――寧ろここでもう頂いちゃってもいいんじゃないか?いいよな。うん…ぁぁもうっ

「頂きま」
「…だからさっきから寒いって………言ってるだろ!!この馬鹿タレッ!!!」

こういう…消耗し切る手前のKIDは、ちょっとばかし恐ろしい。
同じく薄手のシャツに着替える羽目になったキッドは、ひっそりと心すのだった。



―――あ、二人ともお疲れ!

「お疲れ様です(またカンペかよ)」
「あの…大浴場ってどこに」

―――はい?何それ?そんなのないよ

「ハッ。てか…これって」
「…………馬鹿だ。馬っ鹿だ俺……!!」


―――ようこそオンライン専門チャンネルへ w(引っかかったな二人ともv)


――オン専のことかよ!!!





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