■文、etc


□中*K
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深夜の○ックにて━━━



○ックなんて久しぶりに寄ったなあと、中森は奥の方の席を探して其所に腰を落ち着けた。

前に来たのは ━━そう。今夜は遅くなるからと言って、偶々バッタリ会った青子と快斗とで、一度だけ○ックで夕飯にしてしまったことがあった。
コ○ンステッカーが欲しい等と言う彼のために、○ッピーセットなんて頼んでしまい青子にやや言われてから久しい。


・・・えーと、パイプパイプは…っと
懐をあされば、己れからフワリ漂った硝煙の香りに、先程までの事がまざまざと思い起こされ、無駄に苛立ちを誘う。


・・・分かってない。

「いやあ、今回もお手柄でしたねぇ警部!」

現場からその白い姿を消すと同時に、一方的に此方の手に残される盗まれた筈の宝石。
依頼人からすれば、大事な物を死守してくれた警察には感謝感謝の雨あられ…
お手柄、ともてはやされはするものの…肝心の奴はいつまでたっても此方の手をすり抜けていくばかりだった。

「何が手柄だ……畜生っ!」

シュッ… 、パイプに火を付けて、煙を目の前でくゆらせる。
口内を独特な香りが満たしていけば、やがて気分も落ち着いてくるから不思議だ。

・・・やめられんなぁ。こいつだけは…

今回も手痛くやられた…等とは考えない。こんな時にパイプを吹かせつつ考えることと言えば、いつも一人家で待っているであろう娘の青子のことだった。
一昨日の夜のこと。
来週の日曜日は、久しぶりに外食でもしよっか!と、後片付けをしながら青子はいそいそと言ってきた。
そうだな、行くか!と、そう返事をした時の青子は本当に嬉しそうに笑って、そしてこう言ったのだ。

━━━やった!約束ねっお父さん♪




「・・すまないな…」

一人娘からのささやかな提案だ。是が非でも時間を捻り出したい所だが…
溜め息をつくその手元には、来週の警備配置の図案やら、狙われているビッグジュエルの資料が置かれている。一杯の珈琲は、既に冷めてしまっていた。


数枚に目を通しながら暫くパイプをふかしていた中森は、ふと周りの静けさに気がつく。

・・今は24時間営業になって、若者を始め多くの人が朝までも居座っていると聞いていたが…
居るのはほんの数人。しかも皆余程疲れているのか、まるで死んだように眠っていた。

・・・皆疲れとるなあ。
チラと顔を目にすれば、思わず溜め息が漏れた。
くたびれて、擦りきれたような……これが我々大人の姿だと、若者の目には映っているのだろうか?━━━否。

自分も決して例外ではないかもしれないが…
気障で、態とらしく白い姿で現れては獲物を堂々かすめとっていく…あの小憎らしい相手を確保するまでは、へばって等いられない。実際、キッド在るところ、中森在り、である。その情熱は20数年を経た今も変わることはない。所謂、生き甲斐というものを持っている己れは、ある意味幸せなのだろうとも思う。


最早只の黒い液体となったものを無理に流しこむと、さっさと資料を仕舞う。そして最後に少しだけ、と再びパイプをくわえた。



・・・そろそろ帰るか。
現場近くに偶々あったため、ちょっと珈琲でもと寄っただけのこんな此処に、歳甲斐もなくずっと留るつもり等なかった。
プカプカとやっていること暫く…

一瞬フッと視界が途切れ、中森は我に返る。

・・・っとと、いかん。何だ?急に眠く……!?
目をしぱしぱさせながら、その視界は徐々に狭くなっていった。
あまりに突然襲ってきた眠気に違和感を持ちつつも、体が上手く動いてくれない。厄介なことである…と、ここで。

━━━カタンッ…
意識の堕ちる寸前に聞こえたこの音が、何故だか妙に気になった。中森は気力と根性で目をこじ開けて体を捻り、その向こうに目を凝らす。

・・・まだ向こうに誰か…い……!!

━━━━!!!

丁度ソファで死角となっていて気がつかなかったが、中森の席と逆側のソファが並ぶ席のテーブルに、何やら沢山物が乗っているトレイがみえた。そして、その次に…見えたもの。

思わずフラリそちらへと歩き出していた。

ソファの端に見える白い布と、先のとがった白い靴

━━━かっ、かかかか…

己れの良く知っている、されどて全く知らない人物。

一気に眠気はふっとび、その目が見開かれる。間違いなく、あれは…奴は。

「かっ、怪盗キッドぉ!!?」


━━━そう。まさに今、小憎らしいほどに己れの思考の程を占めている元凶が、あろうことかそのままの姿でソファに体を横たえていた。長い脚は、折っていても裕にはみだして靴先がみえている。
テーブルに乗っていた…と思われるものは、全て綺麗に平らげられていたのだった。

・・・ま、まさかこれは…コイツが○ッピーセットを!?
その内容を知り、中森は愕然とする。
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