■文、etc


□逆盗聴の代償 中K中←東(ヘタレ気味)
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━━━ザザッ…ザ━。

「…っと」
周りに人がいないのを確認し、ふわり怪盗は着地した。
既に丑三つ時を過ぎる。ここまで長引いたのは、言うまでもなく某探偵の執拗なまでの追及のせいだった。毎度毎度のことながら、お熱いことで…と、ミネラルウォーターで渇きを潤し、怪盗はほうっと息をはく。
闇に映える白が、絶えず小さく翻る。

5月始めとは言え、まだ冷たい深夜の風に晒されるのは結構堪えるのだろうか…?
怪盗が、思わず両腕で己の体を抱き締めた。その肩は僅かに震えている。

「ぁぁ…っ、はぁあ…」
その目に恍惚の色を浮かばせ…突然、身悶えし出す怪盗。

ドクン…、心臓が跳ねる。が、しかし━━━。

「警部っ…」

━━━ズデッ。
突然怪盗の口から出たその名を聞くや、不謹慎にもその色のある声に聴き入っていた、かの迷探偵は盛大にずっコケた。

「警部…、なんでいつもあんな風に…っ」

イヤホンから聞こえてくる切な気な声。
先程怪盗が探偵に仕掛けた其れを、この探偵は逆に利用し…怪盗の動きを盗聴していたのだった。最早違法行為すら、気にもしない。

「あんな捕まえ方されたらさ…警部。それってもう愛だよね?愛ですよね…っはぁ。」

━━━見、見たい! こんなに胸の奥深くを擽り捲られる、怪盗の晒している(であろう)淫らな姿を…!

ゴクリ。と幾度となく生唾を飲み込み、気付いてくれるなと祈りながらスコープを覗く。

「てか、警部かよ…」
チクリと何処かが痛むのは、気のせい。

「今日なんて、あんなにガッシと…だって、そんなにギュウッてされたら…あんな所やこんな所とか━━こことか当たりまくる訳で。…っひゃぁぁ警部、それは駄目ェェェェ!!私がヤバイ…v」

頬を染め、首をブンブン横に振って何やらとり乱しているらしい。

面食らったのは迷探偵だ。
「コイツに、こんな妄想癖があったとは━━。てか、アンタ…変態?」

呆れがちに言う彼━━スコープに映す、恍惚な怪盗の顔を引き寄せながらキスなんぞしようとしている、この人もどうかと思うが…

「ダミーに…なりたかった 」
はふぅ。と吐息混じりにこぼされた詞… もう、こんな可愛い怪盗を前に(?)して探偵のあんな所やこんな所とかも不穏な動きを見せ始める。


「この告白を録って、いっそ警部ん所へ届けてやろうか」
息も荒く、巡らせる思考も既にピンクがかっている。
「持ち帰りてぇ。てか、マジで…!?」

ん〜、と唇を近付けていく。
と、突然スコープの中の怪盗が此方を振り向き、目が合って盛大に焦った。そして更に、迷探偵は窮地に追い込まれる。

「なっ…!」

「お楽しみ頂けましたかな、変態探偵君…?」

ニヤリ笑って、はっきりキッパリ此方を向いて告げられる。
何者をも射抜く様な鋭いアメジストに見つめられると、一気に緊張感が走った。
「どっちがだよ、この淫らん怪盗」
「遠くから覗き見なんて、やらしいですねぇ、工藤?」

気付かれていたのか…と驚くと同時に、それを知りつつも乱れまくっていた奴のことを思う。…コイツ、どMかよ。

「テメーが無防備過ぎんだろ?でもまぁ、よっく見せつけてくれんじゃねーの。かの怪盗が、妄想に悶えながら…あろうことか警部に熱烈告白とはな。恐れ入ったぜ」

「妄想ではありませんよ、事実です」
貴方と違ってね?と、口元を引き上げた不敵ないつもの仮面で言い放つ。

先程感じた痛みが…もやもやしたものから、いつからこんなイライラへと変わっていたのか。

「そんなに言うなら、この録音今から警部に届けてやるけど?へっ、どんな反応するだろうなー。警部」

相手も予想していたであろう内容をちらつかせ、食い付きをみるのだが…それは一笑されて終わった。

「構いませんよ?どうぞ、どうぞv…できるものならね」
最後の言葉を言い終えた瞬間、探偵の盗聴機器がボンッという音共に再起不能にさせられる。

煙にむせながら、ふっざけんなと怒る間もなく何処からかぐぐもった様な声を聞きつける。

「アロー、アロー?名探偵♪」
「テんメー、やりやがったな!」
「ただ見は頂けませんよ、探偵君」

探り当てた怪盗側のそれに向かっていくら怒鳴り散らせども、返ってくるのはどこまでも弾んだ声音━に思えたのだが。

「今度こんな事をしたなら…そうですね。私がしたこの録音を名探偵のものにそっくり変えて、メディア連中にお渡しするというのはいかがでしょうね?」

怪盗の、喜々とした声色で更に凄みを増す内容の恐ろしさに、思わず迷探偵が身をすくませたのも無理はなかった。
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