■文、etc


□S→□K□ ※特殊…残こくな天使の〇〇〇
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――ククク。これを言ってやったら奴は…一体どんな反応すっかな?


 扉の向こうの白い男。あの嗤いが、今宵何らかの悲鳴に変わるであろう瞬間まで、もうすぐ。

 伊達眼鏡におさらばしてから後、再びフッと現れ始めた白い影に強く心惹かれた探偵。
 それから持ち前の行動力と判断力と…半ば意地で遂にあの大怪盗の謎を突き止めた。その内容に愕然とするのも束の間、今こそ彼に引導を渡してやるのだと――否、ずっと焦がれに焦がれる胸を慰めるために。

 今宵その宴への招待状にかこつけて、想いを告げようと現場へ姿を見せた名探偵こと工藤。実に〇ヶ月振りの対峙だった。


 頬を撫でつける、彼の纏う冷涼な空気。以前と同じく数メートル先で闇に浮かび上がる白に、不覚にも既に心がきゅぅんとなっている。

「やっぱりオメーには月が似合うなKID」
「っ……名探偵!?」
「久しぶりだな…?」
変声機を離し、肉声が屋上に溶けた。
 気配に一時振り返って見せるも、相手は依然背を向けたまま。

「…はっ…やべぇなマジ…くそっ」
震えがくる。ここに居るだけで、情けない位心が揺れる…。
 僅かに勢いを増した風に、月の光を受けた白が緩やかに靡いていた。


――これでは駄目だっ!

「ああそうか。良かったな名探偵」

「そうだな…これでやっと約束が果たせる」
「…約束?」
「おい!テメ、ちょっとはこっち向いたらどうなんだ」
「…無理だ。生憎今は…少々障りがあるからな」
「(何の障りだよ)…?まぁいい。やっとオメーを掴まえたんだからな…大怪盗の真実を」
「…ほーお?」
「先ず…何故名高い宝石ばかりを狙い、その癖後で返却とか馬鹿げた真似をするのかだが――」
 〇ンドラ、先代怪盗の存在と…忌まわしき事故の真相。今の二代目である目の前の彼自身についてを淡々と解き明かしつつ、時間をかけて怪盗へと近づいて行った。
だが相手の正体を口にした時ですら全く動じる気配はなく…。
そのあまりの無反応振りに、探偵は逸る気持ちのままに続けたのだった。

「そんでよ…オメーの正体を暴いてもまだ足んなくて、そのつまり…どうやら、さ」

既にしどろもどろになりつつも、決定的事実を伝えるべく唇を動かす。
だが何だ、何なんだこれは。これではまるで…探偵の己れの方が今にも悲鳴を上げてしまいそうな程に――。

「その……………、つまりっ…………だから俺はっオメーが………………スキ、らしい…な…!?」
些か喧嘩腰ながら、息も熱くやっと云った己れの真実。

 火照った顔が深夜の風によって急激に冷やされていくのが心地良かった。
 そうして暫しの沈黙の後返ってきた言葉は…良い方へ取るべきか否か。

「うん悪くはないな。俺も好きだぜ…名探偵のことは」
「そっ方向いたまんま、嗤いながら言うのかよ…ソレを」
「君とは、末永くいいライバルとしてご一緒願いたいね。探偵君」
「…片手間に相手されても嬉しくねぇんだけど。全部寄越せ。そして俺を見ろ」
「強引だな」
ハハハッ…。カラカラと笑う、その僅かに震わせる肩にすら今にもこの手が届きそうだった。この姿なら、それが叶うと。

「遅かったな」
「……っ!?」
しかして急にトーンを落として振り向いた怪盗は、そして苦笑混じりに惜しいなと息を吐く。

「遅いって…っ何だよ」
あと数十センチの所で絹の鍔に手をかけたまま、探偵はピタリと動きを止める。

「えーと、つまり…君がいない間に、さっき言ってたようなことはとっくにもう片をつけたってことだよ工藤探偵。復帰祝いに教えてやると…近々あっちの方で動きがあるらしいぜ」
そう言って指し示した先…。

「…極東の――E〇EN。まさか………おいマジ…で!?」
「っふう。で、今は…ちょっとしたリハビリに怪盗業を貪るただの愉快犯って感じかな」
「リハビリって、オメー…」
「見えない処がもうボロボロなんでね」
「ば、バーロ!だったら…」

最早探偵のそれは悲鳴に近い。飄々と語られる…驚愕の事実。
 それに押し潰されるかの様な喉奥まで押し寄せるのは、怪盗への幾多の非難と罵声。だがそれのどれもが既に意味を為さないのだと…思わず手に力が込もる。

「おっと。これ以上はもう…野暮ってもんだ探偵君。さっさとその手を離しな」
「…俺はもうあのぼうずじゃない。んな呼び方すんじゃねぇ!」
「その方が君の為だ」
パシッと払われた手を、戻し様勢い良く叩きつけた怪盗のハットがフワリ舞った。

 言外に探偵を突き放す台詞に舌打ちをしつつ、しかして思わずハッとする。

まさか…そんな。そうしていつも思い知らされていた絶対的距離は、今の…この己れ自身に向けられていたのだとしたら…。

「…あんまりオイタが過ぎると恐いですよ」
振り向くこともなくそう告げる男を恨めし気に見つめ、奔放に風に揺れるその髪に口付けた。
 今ならばこんなことも容易いのに、と…。しかして悪戯に切なさを助長させるだけに過ぎないのだが。



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