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□多勢に〇〇〇 【陥落編】
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―――キィン!ーーカランカラン…。

「くっ…!?」
「危ないですね。貴方の同胞達に当たる所でしたよ?気をつけて」
 腕で弾き飛ばし、足下へ転がったナイフを踏みつけながら、KIDは久遠の肩をギリギリと壁に押しやる。

「…毒薬でころしといて、何が気をつけろだよ」
「これ以上傷つけることはまかなりませんし、それにまだ息はありましたよ。最初は体中が痺れて、だんだん意識が薄れてくるという…私特製の品です」

因みに私自身には効きません。さあ…。
 ジャキ。改造銃を構えながら久遠に歩くように促す。

「ここには貴方のボスは居ないようですね。さて、ではアジトまでご案内願えますでしょうか?」

「アンタ…ハクバのこと知ってんだろ?」

「ん?多少なりとは。まあ良きライバルだった、とでも申しましょうか。それが?」
「俺はあの人の右腕なんだよ」
「ーー!ほう。では貴方があのスキーマー久遠ですか」

感心したように顎に手を当てながら奴は笑い声を上げた。

「そういうこと。あんまり余裕こいてっと、痛い目みるぜハンターさ…っぁぁぁあ!?」

「は?」
「ぐっあぁぁぁっ!!あガッーーごフッ(バタッ)」
「えっ」

不敵な笑みを浮かべて見返してきたかと思えば、いきなりもがき苦しみ出す久遠。挙げ句には盛大に血を吐いてぶっ倒れやがった…何コイツ!?

「…何の真似か知りませんけど、今更何をしても無駄ですよ」
「…」
「あまり時間をかけさせないで下さい。ほらっ立ちなさいーーい!?」

 久遠の腕を掴み、グイッと引っ張った瞬間それはスポッとぬけ落ちてしまう。
 思い懸けずバランスを崩したKIDに、空かさず久遠は覆い被さる。手と脚をがっちり捉え、朱にまみれた顔が笑った。

「油断禁物って言わなかったか…?って。へーえこりゃまた…なる程」
「ーー!」
 偶然明かりが差したその顔を、初めてしげしげと眺める。気丈に見つめるその瞳が際立つ、眩しい程に整った顔立ち。

思わず息を飲んだ。これがあの、血も涙も無いと恐れられてきたハンターKIDの姿だったとは。

 ふぅむ。とじっと見つめたままの久遠に苛立ち、顔を背けようとしたKIDの顎を此方へと引き向かせる。
「離しなさい、穢らわしい…それ以上やったら噛みころしますよ…っん、ンン…!?」

「はん。所詮アンタも同類…」只私欲の為にころしを貪るエゴイスト。違うかよ」
「はぁっ、んぅ…ッ!!」

そう。気づけばーーー不愉快極まりない、といった表情に歪む奴の口を塞いでいた。初めて見せた逃げ腰を嘲笑うように、奥まで追い詰めて、その髄まで奪うように何度も。

「ばっ、な…っ、にを!!」

「俺等はころしはしない。けど…アンタはやりすぎた」

 怒りに震わせたKIDの肩を握り、ギリギリと押し付けながら耳元で告げた。
 そして顔を上げ様にチラと彼の方を見やり…思いっきり声を張り上げて呼びかけた。

「おーい、お前ら!…出番だぜー」
 ハッとして久遠を見上げたKIDは、しかしてその現れた気配に…ギョッとする。

「な…んで…!?」
「残念だったなぁハンターさん。こっちにはアンタと渡り合える程の優秀な科学者がいるんでね。」
驚愕のあまり声が出てこない。だって盗聴もしていたし、それに…。

「あんな短時間であの毒を中和できる筈は…!?」
そこまで言いかけてKIDは目を見開いた。

「毒には毒を持って成す…ってな。まあアイツには無理ばっか言って悪かったけど」
「何て無茶を…」
「当たり前だろ。こっちは命懸けなんだよ、アンタみたいな化け物に狙われちまってよ」

 わらわらと集まり来る彼らの何百という数に唖然となる。
悪夢だ。こんな数に一気に来られたら…一瞬でミンチだろ…冗談。

それでもーーあれ?体に力が入らない。ああ、さっきの久遠の…毒が。

 仰向けに倒れたままの状態で至極静かな思考をKIDはめぐらせた。

 ギチギチ…と嫌な音が近づいてくる。久遠が離れ、彼らの作る黒い輪の中央には只一つの白い姿が残された。
 
 そして次第にその輪は狭まる。

ーーーくそ。マジで多すぎなんだよ…。

只、冷ややかに見下ろす月を睨んだ。



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