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とある白Kのうざい脱出劇――LIVEまがい機能つき
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謀られたと思った瞬間、脳天を突き抜ける衝撃。地べたに限りなく近づく、そのスローモーションの中で聞こえたその声に。力を手放し、綴じゆく視界と共に、じわじわとこの心も黒く染まっていくのを感じていた。
ぼんやりと考えたのは…それまでの、己はあまりに迂闊すぎたなあ等ということくらいか。


(ちょ、ダメダメじゃん…てかこれはらぶらぶ二人vの愛と友情の脱出劇…じゃないのか?あれれ??――てな訳で、今回はこのような無駄に実況スタイルで私、仔山羊がコメントさせて頂きまーす♪さてと…脱ごう…←うそ)

――…んっ… つ…
右目許が熱く、鈍い痛みが全身を包んでいた。暗く陰湿な空間で、身動ぐこともままならないのは、両手脚に加えて架された、首もとの戒めのせい。
足首をくわえた頑丈な鋼鉄のそれがザリ、と錆びた音を響かせる。重い両腕は頭上で、これまた頑丈に固定されていた。

――げぇっ…

「全くさあ、最近の若いもんはこのテのもんに懲りすぎ!ちょっとこれはどうよ?…逃げ出すこっちの身にもなれっての――あ、これは後でカットしてね監督v」

(って、使ってるし……w)

――気がついたかい
(白馬探偵…♪)
――!
――あの場で君を救うには、こうするしかなかった…すみません

(裏切ったな…俺の気持ちを裏切ったなっ!!…失礼、げふげふ)

――……
「何故救おうとする?」
こんな真似しといて…と。半ば呆れて見やったその相手の顔は、逆光の所為かその是非すら窺え知ることができなかった。
そうして残念なことに、このぼやけた視界では普段の様に克明にその姿は双眸に映されず――それが口惜しくもあった。

(いや、実際かなり格好良かったし…なんかキラキラしてたぜ、キラキラ♪キラキラ〜)

「まるで正義に厚い日本の警視総監のご子息殿のされることとは思えないな。こんな姑息且つえげつない真似…ああそうか。これも売国主義連中より担ぎ上げられた、頭無しお上に従わざるを得ない所以。貴男方の哀しい宿命という訳かな?…反吐が出る」
どの面下げて来たかと思えば。いきなりそんな謝罪を降らせた知人に、溜飲が下がる所か、奥底に潜ませていた怒りと葛藤…そして喪失感が沸々と浮上しただけ。

「無事に引き渡すように伝えました」
しかし痛々しいな。と、率直に呟きながら不意に此方の掌に這わすその指先の温みに、密かにトクンと灯らせる。

(ん――こんなに探君の顔はっきりしなかったんだ…実際かなり神妙にしてて、何か可笑しくて堪えるの大変だったけどね)

――シケた面しやがって
「ね、笑って」
「…」
「そんな怖い顔ではいけませんね。笑って下さい」
この頗る面白くない境地にぶち込まれただけでも、気が滅入るというのに。

――如何にもすまなそうにしちゃって
こんな状況下でも…己の唯一が、目の前の黒服に身を包む探偵であることは変わらないのだから。

――世話無いね
(本当だぜ)
カチャリ。擦れる金属の音だけが、耳障りで鬱陶しい現実に引き戻してくれる。
鳴きたくなる程に打ちのめされたこんな時位、ひた甘い妄想に暮れたっていいじゃないか。そう全ては幻――実際そう全てすり抜けていくだけだ。

(糖度低っいよな毎回。まあ何だ…探君の方がちょっとひき気味なんだよねぇ淋しい)

「そこじゃあ届きませんよ」
もう一度、今一度この探偵を欲する。ギリギリと手脚に食い込む枷の音が喧しく響くとも構わない。

(これはね…まだその跡残ってるんですよ…ほらw何かまだ首にはまってる感じ抜けないし←チョーカーしとる)

「は…ぁう…もっと近く、此方へ」
冷えた頬に、此方も冷たいながら探偵の撫ぜるその手が心地良く、うっとりと目を閉じて感じ入っていると。
柄にもなく思い詰めた面持ちで、薄く開かれた怪盗の口元に、探偵はそうっと指先を添えた。
ドクン…触れられた瞬間に、ある思いを過ぎらせる。それは仄かに灯らせる淡い期待とは全く別次元から己を悶えさせるもの。
ヒタヒタと己の内から浸蝕されていくかの様なおぞましい感覚。そんなぞわぞわと気配の粟立ちを隠し得ない様子の怪盗から、探偵は無言で手を戻そうとした――

「やめたまえ。すまない…今の僕に、此の場所に口付けるなんてことは出来っこない」
先程から直接的に一切咎めることの無い相手を訝しむ、が…それは只の此方の都合の良い解釈に過ぎない。
些か窶れさせただろうその頬に手を滑らせていると、何ら普段と変わりのない世界に居ると錯覚させられる。
態と手を伸ばした…この距離間で。
努めて冷静に淡々と這わせていた指先を、その唇に添えた―瞬。
薄く開いた其処から覗いた舌先が、ぺろり爪を掠めて急ぎ手を引き戻した。

「指先に、もしかしたら毒が塗られているかもしれないよ?」
えげつないと思われても致し方ない。となれば尚更訊くことは出来ないのだ、互いの矜持を思うなら。


(ていうか白馬探偵は、その存在自体が既に毒。目に毒ぅっ…これが…愛か(ポッ))




「そ?…ならばそれはきっと甘美なる毒と言えるでしょうね」
くつくつ、と…そうして舌なめずりをしてみせながら、重い脚をゆるゆると組み直した。

「必ず、救い出すから…もう少しだけ」
大人しく待っていて、と漆黒の髪を梳き上げてはキスを贈った。
だがそれを受けた当人は、途端に眼光も鋭く探偵を睨みつける。

――?
「いや、それには及びませんよ。前にも言いましたが…貴方に守って頂く筋合いは無い。せめてもの罪滅ぼしに等と、浅はかな考えはお辞めなさい」
逆に迷惑。若干刺々しい物言いで怪盗はそう告げ、ぷいと首を背けては悠然と背を壁に預けた。


"“(_/ミ/[◎フ〃/ヾ\__) {――てか俺…本当に此処に要るのか…ぴ?]


――もう少しだ
此方は職業柄、意地でも意識は手放しはない。細工は隆々、――只、今は目の前のこの男の動き次第。

――気づいてるとは思うけど
違和感無く切り替えられたカメラ映像、だがそれはほんの小手調べにすぎない。
探偵の講じる策をもこうして潜り抜けた結果、自由に動ける凡そ10分間が弾き出された。


――…へえ。そりゃ儲けw
それじゃあ。とばかりニッと笑い、怪盗は動き出す。

「ふっ、んんんぐぐっ!!…てやっぱキツいかw」
そう言うとどこからか取り出した…恐らく特注の細い金属の棒で、何やらカチャカチャ言わせている。耳障りな音が、忙しなく響いていたのはほんの十数秒足らずで。


―――カチャカチャ…ボン☆ガチャリ

「オッケ♪」
「本当に鮮やかなものですね…」
背を向け、それは音を耳にしただけだったが、所謂プロの仕事を目の当たりにしたのは初めてだった。
それが見知った級友ならば殊更に…探偵は思わず密かに驚嘆否感嘆の詞を零した。

「…そりゃあどもv御陰様でw」
人懐っこい声でそう告げる、がその横顔には一切の妥協が見受けられずに、探偵は固唾を飲んで懐を探り、愛用の時計へと視線を戻した。


(あと8分〜…んー、アレだな。好敵手にわざわざ手の内を晒してるみたいで、これはちょっと宜しくなかったな…でも探君てばうまくっ)


間もなくして、重々しい音と共に脚の戒めが外された。怪盗は手足をくるくると軽く回しながら、而していきなりスゥッと表情を改め、徐にその首元に手を持っていく。

―――ジ…ジジジっ
(これだけは…ね。何かアレを感じましたね……フフ)


――ん!?
直ぐに手を離した。というよりそうせざるを得ない、あと数秒これに触れていたなら…よもや此方の指がやられていたかもしれなかった。

「あと残るは…この首輪ちゃんだけですが、これはちと厄介な」
「それの仕組みは、僕にも分からなくて…」
「退いて。ほらこう前に手を翳すと…」

―――ジジっ…ジ――シュビッ―――




「「…冗談キツいってばっ!!」」

因みに後ろに翳すと何も反応は無い。正面を向いたこの180゜の範囲内、2つ付いているセンサーに触れた物を一瞬で焼き切る代物だった。
おまけに壁に頑丈に溶接されている為、そう易々とはいかない…これには何の術も浮かばなかった。






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