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園形〜ある日の駅にて〜
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「………畜生」

まだ…酷く痺れていて指の先すらも思うように動かせない。
冷たく吹きすさぶ風に、モノクルのストラップが激しく踊らされた。

人々の消えた駅のホーム。まるで其処だけ切り取られた空間のように、叉はある奇跡かの如くに二人…置き去られていた。


今頃は、ここ以外全ての乗客は避難していることだろう。

(せめて…このお嬢さんだけでも、と…思う…のですが)

周りにバタバタと倒れ臥している人々に目をやり、怪盗は忌々し気に白い息を吐く。

(今は…マジで力が、入んなくてさ)

それでも。と再び身体に力を籠めて、腕を動かそうとした…とき。

同じ柱を背にした、清々しい額を晒した金髪の…眠り姫が身動いだ。

「……へぁ?…ぅっ、〜ん……ぁた!たたた…、エッ」

(ちょっと何…っ、…さっっぶぅー!!何よこれっ!?は!?マジで……い痛っ、頭が…)

「何…、アタシどうなって……ウッ!っ寒〜い」

(へぁ。って……あーあ気がついちゃったよ彼女)

「……ん?この…白い…マント!?……まっ………まままさか!!!」

「……」
「……ぁ、ぁあっ…アナタはっもももしかしてっ……vv」

「……」
「…もしや……KIDさまで…いらっしゃいませんですことっ!?vv」

差ほど広くはなくても、これだけガランとしていると…素っ頓狂な彼女の声はよく響き渡る。

「はぁ、まぁ……気がつかれましたかお嬢さん。どこかお怪我はありません、か?」

カチャカチャと音を立て、細かに動かしていた腕をスッと引いて、怪盗はふわり顔を綻ばせてみせる。

「ィ、イエッ!特には…v…ふぇっくしっ!」

ズズッ…拙い。、まさかこの人の前で鼻水垂らすなんてこと……ないない。絶対に有り得ない!!!

「そのままでは…風邪をひいてしまいます。構いませんので、どうぞこのマントをっ引いて…その身体に…っ」

「あっ、ありがとうございますっ……〃〃〃〃」

根性で引っ込めた、赤い鼻の彼女はいそいそとマントを引き寄せた。

(っ確かまだ…時間はあった筈だ。けど…何処に爆弾が仕掛けてあるのか)

クイッと後ろに引かれるのを感じながら、怪盗はその可能性の限りを探る。
その眼を酷く瞠目させながら、擦り切れた手首を未だきつくくわえたそれを外そうと身動ぐ。しかし自由の利かないこの状態ではかなり厳しいか。
実は、今は立っていることすらやっとだったりする。


(鍵の場所…鍵さえあればなんとか)

タネも仕掛けもある…ぶっちゃけ、仕込んで無ければ如何に自分で合っても危うい。

今日の仕込んでいたネタは、先ほどの※アレで昏倒してしまった際に…全て剥ぎ取られてしまったらしく。
胸を温める鳩子達の姿もない。
秘伝のあの方法をやるには、些か…気が退ける。というか今やったら折れる、確実に。

いや、鍵は何処かにある。何故ならば…これは。

「………」

「(ぬくぬくv)……んん?何か、胸に……ぁ、これは」

「……か、」
「……KIDさま!?どうかなさいましたの?」
「……」
「…KIDさまぁ!?」
「………待って…今すぐこれ外してしまい…ますか…ら」
「!…えっ…ちょっとっ…KIDさま!!?」
「…っ」
ずりずりと怪盗が崩れると、当然のように連られて彼女の手も下へと引きずり込まれる。
打ちつけた尻をさすりつつ、身体を捻らせて振り返りみれば。

「KIDっさまぁ!!!?」
ガクリと力の抜けた白い肩。その先の、自分と繋がった腕が同じく力無く投げ出されているのを見留める。

「…すみません…今、すぐに…から」
「あのっ!私さっき…鍵を見つけたんですけど、そ…の〃〃〃」
「え…?」

戸惑いを隠せないその様子に…訝しんで顔を上げて見やれば。
いいから読んで、と震える手で小さな紙切れを渡してくる。

(何をそんなに…狼狽えてるんだこの人は…………は?)

紙切れを掴むより早くに飛び込んできた内容に…唖然となる。

「この紙、太ももに貼ってあって…」

「………」
「………」
「………」
「………」

「………あの、KIDさま?」
「………何でしょうか」
茫然自失気味だった怪盗は袖を引かれ、苦い現実に早速打ちのめされる。

「これって私が自分で取り出しちゃいけないのかなあ…」
「…………」
「…………どうしよう…どうすればいいの!?」

「………弱りましたね」
「KIDさまは…やっぱり伯父様、いえ男性ですよね!?」
「見たまんまです…それが何か?」
「……でも、女の子だからっつってもいい訳じゃないし…それに私は京極さんのものだからっ…いやんvV園子困っちゃうっそんな〃〃〃」

(このっ、お気楽女が…!)

いやんなのはこっちの方だ。何が哀しくてこんな…、良く知りもしない女の胸何かに…馬鹿かと。

「………(嫌がらせにも歩度がある)」

というかそれ以前にそんな…身体を後ろに捻らせた挙げ句、口を使って鍵を取り出すなんて。今の怪盗の状態ではかなり危うい。実際問題で、動けない。

(こんなことさせるつもりならなあ、もっとマシな手で仕掛けて来いってんだ!これじゃ動けねーっつの)

ぶるる。思い出しただけでもまた…気力が削がれていく。

「ちょっと…KIDさま?大丈夫ですか!?」

(う…揺らしてくれるな…マジで)

「……大…丈夫で……ら(ガクッ)」

「いっいやあぁ!KIDさまぁぁぁ!……ちょっとぉっ何よどうすんのよ!こんなんじゃ…KIDさま動けないじゃないの〜!馬鹿ぁっもうせっかくの(?)チャンスなのに〜!!」

(チャンスねぇ。…確かに、仕掛けるなら今しかないですね)


「落ち着いて下…さい。お嬢さん…分かりましたよ、もう大丈夫です」

『……』

「聞こえてるのでしょう?」

『……』


「………どうするんですか?私はこの通り動けませんし。貴方々の要求をこなすことが難しいのですが。貴方々のせいでね…それと、爆弾の場所ももう分かりました」

『!』

「……KIDさま?どうかなさいまして?…きゃっ」
「貴方々の正体も、私には分かっていますよ(グイッ)」
「…や、やめて……っKIDさまvv」

「もっと此方に寄って頂かないと…届きませんよ」
「いっ…たぁっ……んむぐっ」
「そのまま、少しお休みなさい。お嬢さん♪」

「ぐくー……」

ふぅ。これでやっと逃げ仰せる、と左脚の裾より針金を取り出してぱぱっと両腕を自由にする。
一目みて…それがどんな型のものなのかは分かっていた。
けれどもまさか…… あそこまでされてしまうほどに、恨まれていたなんて思わなかった。

「爆弾、これで回避で宜しいですね?」

『………』
「まさか…この私が、譬え動けるようであっても。よもや彼女にそんなことをするとでも思っていたんですか?馬鹿ですね」
『…うるせーよ』

「なんなら、今からお望み通り彼女の胸よりこの口で鍵を」

『(ブチッ)』
「悪い…っ!マジで、ごめん!!!!」

(え…)
「……ん…はぁっ……んっ!?……ぱぁ!!……なっななな!!!?」
「…………ぇぇええっっ!!!?」
聞き分けのない悪戯坊主を、逆にからかってやろうと…ほんのちょっとした、フェイントの筈だったのに。

「次郎吉おじ様から教わりましたの…対KIDさま用タヌキ寝入りv」

「まっ…まさかそんな!オイッKID!?」
「……んんっ、はぁちょっ…ぁっ、うぐっ」

「……侮り難しは、財閥のご令嬢殿ってか」
「元はと言えば、貴方達がKIDさまをあんな目に遭わしたからでしょうにっ(ぎゅう」

「いや。確かにちょっとやりすぎた感じはあったんだ…けど、やっぱり赦せなくてだなっ……つーか、いい加減そいつ離せよ」
「…やーよv」
「……ぁっ、…きっどさ…」
「ぐがぁぁぁぁぁ!!!やっぱ回避無理だぜバーロぉお!!!食らえっ愛のばくだぁぁあん!!!」

「きゃぁぁぁぁあ!!!」
「うあぁぁぁぁ!!!」
「うおぉぉぉぁぁっ!!!」



※ ここで問題です

怪盗さんがここまでヘロヘロんにされてしまった…その内容とは?

1.胸に魚型のカイロが大量に入っている
2.魚肉ソーセージを食べさせられた
3.見せられたら園子のパ〇ツの柄が熱帯魚だった


答えは 挙手でヨロv
 

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