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K+α〜ある夜の街にて〜
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※まさかの四期ネタ含みます!





「…Ask her to do me this courtesy,〇arsley, 〇age, rosemary and thyme,…」

闇にけぶる雨の中。ずぶ濡れの衣装のその端をキュッと絞りながら、軒下で雨宿りをする怪盗の姿があった。

しっとり雨に歌を乗せるのはいつものこと。気が紛れるというか…自然と口ずさんでしまうのだったが。

「いい声ですねぇ。アナタ行商人か何かですか?」

なんて突然声をかけられた時は思わずバッと身構えた。
しかして全くその気配を感じ取れなかった相手の容貌を見るや、また更に怪訝さを露わにする。
そうせざるを得ない。失礼ながら言わせて貰おうと、まるでその愚鈍な雰囲気をそのまま表しした様な…形相。
この世のものとは思えないそれはどこまでも有り得ないもののようで、とことん異質なものだった…が。

「いいえ。…そう見えますか?」
というか、はちまき何ぞ巻いている…寧ろそっちの方がそれらしく見えるのだが。

「いやあ、だって野菜の名前が聞こえたものですから」


――何ていう歌なんです?

――かの有名な……

――…ああ、確かにちょっと前にそんな歌聴いた気がしますねぇ。

ほほほ。と嗤いながら、同じくびしょびしょの袖をピッピッと払う。

――どういう歌なんですか


「あー…っと。これはその、共に隔てられた時間を生きる恋人達の、強くそして美しい想いの歌です。孤独の中でも辛抱強く在ろうとする…彼の覚悟と、そして健気に待っている恋人の願いと…その強さはいつの時代でも惹き付けられるものですね」

雨脚の強まる一方の空。怪盗の息だけが白く溶けていく。

「ほーぅ。貴方はとても行商人には見えませんが…」

「ああ、それは――」

歌詞にある4種の香草のことを言っているのだろう。それぞれの云われを出来る限り分かり易く簡単に説明すると、成る程と相槌が返ってきた。

「じゃあ禰宜を頂けますか?」

が、やはり上手く伝わっていないらしかった。

「禰宜だけでいいんですよ」

「……ばーん…?」
「良くお分かりになりましたね」

――いや、アンタがな!

某作品を思い起こさせるフレーズに、思わず右手を銃に見立てて相手に向けると。
当たったのか、唯一表情を偲ばせるであろうその相手の口元が引き上げられた。

認めたくはなかったのだが…この相手には、恐らく――。

「随分大降りになってきましたねぇ…おや、貴方そんなに寒そうにして大丈夫ですか?」
「…っくしょい!」
「あーあー、こんなにびしょびしょで。宜しければ一杯召し上がって行きませんか」
「……ぅぅ、す…さ、さ寒いっです…が」

其れよりも、この明らかに異質な存在感を発している人物に対してへの震えの方が大きい。
何故なら…彼にはその顔に、無かったのだ――口以外、何一つとして。

「まぁまぁ兎に角中へどうぞ、私が一杯驕って差し上げますから」
「いや、その…今は差ほど別に空腹という訳ではなくてですね」
「取りあえず中へお入りなさい」
「えっ…しかし勝手に人のお店には…」
「心配要りませんよ、お客さん」
「は…っうぁああ!?」
有無を言わせない、もの凄い力で中へと引っ張り込まれる。やはり此奴は徒者じゃない、と強く身体を捻ってみせるも…。
後ろでピシャリと戸が閉められてからではもう遅い。

「此処は私の店ですから」
「店のご主人でいらしたのですね」
悪いことに、先程から心臓がバクバクと鳴り始めている。化け物を目の前にしているのだから無理もない…そう思いたい。

当の店の主は、奥で何やらやっているらしく、カチャカチャと騒がしい。少しして。

「あの。ご主人、本当に…」
「お客さん、いいから取りあえず席に座ってて頂けますか」

トン。と水を置きながら些か語気を強めてそう言うと、すぐにまた奥へと引っ込んでしまった。
ゴク。…こうなれば覚悟を決めてやれ――。

「……はい。では御言葉に甘えまして」
「大丈夫、ゆっくりしていって下さい。悪い様にはしませんから」
「はあ…」
それでも先程のもの凄い力を思い出し、不安は拭えなかったのだが。

―――トン。トン。トン…

「……」
外は酷い雨らしく、仕込んだマイクから入ってくるのは雑音ばかりで、現場の様子がイマイチ聞き取れない。
ポタポタと、日差しに掛けた衣紋掛けに干したマントから滴る音が、絶えず静寂を破っていた。
そうして不思議なことに、ふと気がつくと震えは収まっていた。風一つ入り込む隙も無い為か、寒さも和らいでいる様に思える。

―――貴方とは何だか気が合いそうですねぇ

――うーん…それはどうかな


どうやらすぐに捕って喰われる様な心配は無さそうだが、やはり…相手のことを考えると何とも言い難くもあった。

「お待ちどうさま。ほいっ冷めないうちにどうぞ召し上がって下さい」

「…本当に頂いていいんですか?」

一口食べた瞬間、魂を寄越せ等と云われたりはしないだろうか?

「いいんですよ。さっきも言いましたが、何だか貴方とは気が合う様に思えまして。遠慮せずにどうぞどうぞ」
「とても美味しそうですね。では早速、頂きます!」

――えぇいっ。こーなりゃ侭よ!
出されたのは見た目も美味しそうな天蕎麦だった。
此処はどうやら蕎麦屋のようだ。そうしてズズ−ッと一口…これは美味い。
それからは勢い良くかっ込んでは、ズズッとつゆを頂き…うっかりあっという間に完食してしまった。

「美味い…これは良い出汁を使っていますね…更に有機野菜の旨味がつゆに溶け込むと、それはもう見事にコシのあるこの蕎麦が良くマッチして…うーむ」

と、思わずブツブツと語り出してしまう程。

―――コト…ン
「はぁ…vとても美味しかったですご主人。どうもご馳走様でした。時に、一つお訊ねしても宜しいですか?ご主人……ご主人?」

一体何処へ、と首を傾げていると。ガタンと物音がしてから暫く…妙な音と共にそれは聞こえてきた。

――!!!
うっかり…聞いてしまったのだった。しかし、ではあの妙な音は一体…。

「…っどう……あ、ぁあこれは…失礼。どうかなさいましたか?お客さん」
「………ああ、このお蕎麦のことなんですけど。あまりに美味しくて。とても感激しておりましたところで」
「そうですかぁ。いやそれは良かった…………たい」
「……この出汁と具材に、有機野菜を使われてますよね!素晴らしいですv」
「ほほぅ。貴方にもこの良さが分かりますか!いいものですよー、汗水流して育てた野菜は。もの凄く甘みがあって………食べたい」

―――ガタッ!
今は全くはっきりしっかりと聞き取れた。しかもその…雰囲気が先程とはかなり異なっている。

「……ご主人自ら栽培とは…それは凄い」
「……聞こえましたか」
「…は…い?何が」
「いえ。ならいいんです…まぁそう焦らずに。さあ、お掛け下さいな」
「………ふぅ。……っ!!?」

――ヒュゥン……ドカッ!!!

――お…い、おいおいおいおいおい!!!!

「ほぅ。貴方なかなかいい動きしますね」
「…ハァッ、ハァッ…食後の運動にしては少し洒落になりませんが」

咄嗟に椅子から飛び退き、背にした壁の直ぐ横…突き刺さった長物が微かに振れている。

「貴方の迷いは分かります…しかし食材から、ご主人自らお手打ちになられるその丹精なるお心遣い…この私にも先程その温もりを分けて下さいました。その貴方ならばきっとお分かりになる筈です!いや、分かって…待ってっ」

半ば涙目で唸る菜箸をかいくぐる。仕方無く此方も愛機を取り出し、数発相手に目掛けて放つ…が。

「何−−−−!!!?」
思わず目を疑った。くるくると高速回転させたその菜箸は、何と絶妙なるタイミングでトランプ弾を、その先で見事に掴んだのだ。

――あ、あんたはベスト〇ッドか!!
――ふっ。宮もと武蔵と呼んで頂きたい

「本気で笑えませんって」
じりじりと迫るこの得体の知れぬ恐怖に、さしもの怪盗も動きが鈍る。
否それ以前に化け物と互角に渡り合えるものだろうか。如何なる大怪盗と言えども、まさかこの身が喰われよう等とは。

「誰が大人しくっ喰われてやるものですかっ…そら、こっちですよ!こっち♪……げっ!?」

――ヒュゥ… ットッ。カカカカカカッ!…ダン!!

素早く身を反らせつつ移動し、日差しに掛けていたそれを手に相手を挑発する。
そうして、それに全てが向かう僅かな隙に、引き戸を破り脱け出せる筈だった…のだが。

「その箸の動きは…反、則…」
やはりというべきか、戸は堅く閉まったまま。更にUターンをして勢い付いた箸手裏剣が炸裂…その内の一発がカーン!とばかり怪盗を直撃したのだった。

「っ…ぅ…」
「んーん…、きっとこの顔もさぞや甘いことでしょうねぇ…んー…まっv」
目覚めると、何故か身体が壺にすっぽり嵌っていた。一体どうやって入ったのか…僅かな身動ぎすらできない。
。。いやそれより今、目の前で何かがちらついて…!?

「では、頂きま〜」
「…っていきなりですか!」

――ぬゎわぁああっ!!!

「…げぷっ」
「……?」

その舌で、ぺろんっと一舐め。そうして相手は離れて行き、何だか拍子抜けしてしまった…と、その時。

「うぇっ!…げ***」
「!!?」
「不っ味」
――ぃっ、ぁぁぁあ!!?
暗い。そう思った時には、KIDの意識は既に飛んでいた。

――不味いって何だよこの野郎ぉぉ…!



「はははっ」
「ふんむぅ…」


――ずずーっ。コトン

「ご馳走様でした、ご主人」
「まいど〜」

「見ない顔でしたね」
「もしや…」
「?」

――あの感触は…何の??
忘れて都合のいい時もある、例えば…。


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