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〜*MK*CK※パラレル…※
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怪盗を引退してから幾月。今はある人物より託された、ある物質の情報を集めつつ。予備校講師やら、ホテルマンやら、店員やら…と数多くをこなす。
部屋に戻ってからはひたすら青い画面を見つめ、速急にキーを叩きつけ…その繰り返し。

ズズ…ッ。―――

タンブラー入りのストレート珈琲をお供に、無言で口に手製サンドを運ぶ。
パパパッ…と瞬間的に、そして絶え間なく映し出される画像やテキスト。それらを記憶させることかれこれ2時間半。

チッ…チッ……カチッ
更にそれらの中から、最も有力なものを洗い出す。が、今日はここで…時間だ。
伸びをして洗面所で軽く身なりを正す程度…一応はカラーコンタクトをはめておく。
薄手の黒いジャンパーに手袋、キャップを被り。財布を尻ポケットに捻入れてドアーを開ける。
ガチャリ。振り向き様空中へと放った鍵は、瞬間的にかき消える。いつでもどこでも演出(サービス精神)は付き物…だったが。
今回ばかりは少々危険…否、というか…ぶっちゃけそれは――いつものこと。

―――バタタッ…―ガンッ…ドッ――

「……っ!!」
「フン、油断したな。先ずは…この間の礼から」

――チッ。…また
最初の一発目はまともに喰らう。が、極力衝撃を避ける格好をとった。
相手は大抵3、4人というのがいつもで。二人掛かりで壁に押し付けられ、ニヤニヤと覗き込まれる。

「…!!!?」
くつくつ…。と、しかしここで細かな暴挙に出た元KID…安佐人に、彼等はその一瞬ピシリと空気ごと固まらせた。
引退した…所謂そっち方面の彼等は、今度は何と例の物質を標的にした様で。
この数カ月の内に何度か襲撃に遭っていたのだ。否――。

―――ガッ。……ぶべっ!!――トンッ……バキッ!…ズザッ――

「な…」
「(ニヤリ)そいつはどうかな?(バッ…!)」

この様に悉く返り討ちにしていた、というべきか。ここまでくると、もう相手に対して涙ぐましいとさえ思えてくる。

「では。これにて失礼v」
恭し気に手を胸へ。そしてコンクリに手をついて、飛び上がって攻撃を回避させた。
宙を一転しつつ薄い手すりに着地すると、そこからバッと飛び降りる。

「!!…クッ、野郎…う…う、撃てっ逃がすな!!」

くるんとまた一回転しては、5階下の手すりに掴まりながら、脚をぶらぶら。
そうしてまたトンッと壁を蹴り上げ、身を回転させながら階下家々の幣の上へと着地した。


「んっ…お見事10000点♪」

―――キャアッ……!!?

と、時にこの喧騒に思わずドアから出てきた女性の叫声が響く。見られた…彼等とて、今となってはあまり派手な動きはできない。

「チッ…。仕方ない、おいっお前等引き上げだ!」
「あのー、朝方からの撮影ご苦労様です!これ…さっきの方に差し入れです」
「え…」
「以前に、あの方が言っていたので…感激ですv生でこんなアクション場面観られるなんて!…宜しく頼みますね!それではっ…」
「いや、違う…俺達はっ……」

―――バタン。……ガチャッ

「………」
呆気に取られながらそれを見送り。次第に沸々と上がる苛立ちのままに遥か下を覗き込む。


―――フッ。……それでは皆さま、ごきげんよう(べぇっ)w

「クソッ。あの変態猿…っ!!!」
並々ならぬ身体力を見せつけつつ、姿を消した相手に悪態吐く。
確かにその逃亡っ振りは見事で、それはまるで猿並み…ではあった。



   + + +



KKとして出逢う前、街で偶然見かけたCKが忘れられずにいたMK。そしてひょんなことから、とある予備校の講師だと判明。
得意の変装で、一講師として数日間だけ通った際、それとなく相手に話しかけたりしていた。

ある日の帰り際、休憩室で偶々二人きりで居合わせた時のこと。


――何か…分かるんだよねぇ、俺

傍ら目にしたその横顔…一見して、至っていつもの通り端正で且つ麗し気に見えるものの。
ほんの少しばかり、数日前とは明らかに陰っている…奥の表情。

どこか、憂いに華ぐ彼の人の雰囲気ではあるのだけれど。而してこの僅かな変化が、全体的な雰囲気に影響を及ぼしている。
なまじ他人の裏の裏の顔を探る、という様な己の家業所以にか、キッドにはそれが直ぐさま異様だと感じられた。


――あーのさ、アンタかなり危ない橋渡ってない?こう…命削って何かしてんじゃないの?

――少々の危険は、男の華の一つってね。…んーと、顔色悪いのは多分寝不足のせいだな…昨夜もずっと資料作成してて

――あんま無理すんなよ…まあ、滅茶苦茶分かりやすいけどなぁこの資料プリ。……じゃなくて

―…別に何も。命削ってまでやってることなんてない

――ふーん…そう?
ジッと見つめるその顔は、やはり少しも揺るがない。自然に目を逸らすと、逆にスッと頬骨の辺りに触れるのは…。

――そっちこそ何か…窶れてないか?ほら、ここん所とか…

――…っは…何。アンタもしかしてそっち系…とか?
――いや全く。只ここん所に隙があったからかな…お茶目さん♪
――何だよ隙って…

――確かに、大いにそそられてはいるんだけどね。断然女の子でしょう君vこの手に抱くのはさ

――アンタが女だったら、俺が抱いてるかもよ…?なーんて♪さっきのお返し
息も触れ合う距離。くいっと此方に向かせた顔…一瞬ピクリとだけ振れた肩に、構わず腕を回して、そう告げる。
冗談だと分かっている筈のこの戯れに、やはり相手も…と、そう思っていたのだが。

――お前ってさ…

――……どうしたよ?
その表情に。思わず、グッと抱き寄せる腕に力が篭もる。
重ね合わせるだけだった息遣いが、耳に濡れた音を立てた。微かに吐かれたその響きに、キッドの胸の音が呼応する様に早鳴る。
つい先程間での、擽り合っているだけとは明らかに違う反応。
触れる髪の中に手を深く挿し入れて、戸惑いの色も露わなその額に唇を押し付けた。
その直後、まるでバリッという音を打ち立てるかの様な勢いで、身体が引き剥がされる。
あまりの強さに、そのままソファの端に頭をぶつけたキッドだったが、相手は構わずに部屋を後にしてしまった。

――……何、それ

茫然と一人、ゆっくりと身体を起こしてはソファに凭れる。そうして反芻させるのは、先刻の…相手の見せた言いようのない、あの――。

――…絶対ヤバいって

このことは、キッドにとっていろいろと反則且つ不意打ち攻撃だった。
無言に潜ませた息遣い。絶対的な瞳の色…どこか儚げに感じられた、その憂いの根本をも垣間見た気がする。
それと同時に、やはり自然と手を伸ばしたくなるその愛しさが募った。
強く、そうしてこの腕の中にかき抱きたいと…その瞬間、沸き上がる思いに胸を染め上げた。


しかし今はそれきり…相手は姿を消したまま。
彷徨えるその瞳で、今頃一体何を見て…そうしてまた囚われるのか。



――あ、……彼奴っ…!!


だが、酷く気になっていた…そんな時。奇しくも3度目の再会を果たした。



+ + +



いや、再会したというのは少々語弊…偶々見かけたキッド本人だけがそう思っていたことで。

一度目は、雑踏の中一人立ち尽くすその姿に酷く魅入られた。最早釘づけだった…周りの雑踏はさらさらと流れる波の音へと変わり。
その瞬間、其処はまるで…世界に二人きりで佇む浜辺と化していた。
たった数秒間の奇跡。そうしていると、本当に瞬く内にその姿は見失われてしまった。

しかし縁とは不思議なもので。ふと潜入先の邸宅のお嬢さんが通っていた予備校が、例の彼処だったという訳だ。
彼女もまた気さくに話しかけてきては、今密かに人気だというある講師について嬉々として語った。



――これはどうも宜しく…真字人と言います。まなちゃんって呼んで下さい。…なんてね♪

――は…ぁ
にっこりとそう寄越され、キッドも宜しくと手を差し出しつつ…ちゃっかりその名を呼ぶと。

――イッ…!?

――…だから、冗談だって
途端にピクリ口の端を引きつらせた相手は、掴んだ手を軽く捻る様に、グッとそのまま強く引き込んだ。
至近距離にある、やや据わった瞳で笑みを称えているそれにもきゅんとなったのは、不覚だった。

――……っ。
間近にしてみると、而してやはりその端正さが際立つ。すらりとした指、そうして爪の先から薫る様な…美しく、研ぎ澄まされた動作が目に焼き付いて離れない。
とかく今まで散々に物腰が優雅である、とか冷涼な雰囲気云々と言われてきたキッドだったが。
ビリビリと、その絶対的雰囲気なるものをこの時彼の人より感じ取っていた。





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