■文、etc
□中*K
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そんな彼などにはお構いなく。
今現在、彼の怪盗はこれまた長い白いマントで身をくるむようにして眠りこけているのだった。
その寛ぎっぷりと言ったらない。
中森は、暫し開いた口が塞がらなかった。
漸く我に返った彼は、身体中を疑問詞で一杯にしていた。
バクバクと、まるで心臓が口から出そうな心境に、己れの心臓は弾けんばかりである。
・・・な、なん…で奴がこんな処に!?いや、それよりこの状況で…しかし
━━━━本物なのか?
恐る恐る近付くが…僅かな寝息すらも聴こえてこないのは、どういう訳なのか。
顔を覗き込もうとする。
だが、相変わらず目深に被られたハットで、影となっていてそれも叶わなかった。
しかし━━━動かない。
微かな呼吸の動きだけはみてとれるのだが。
こんな明みで、これ程近くでみたことはなかったな、と中森は図らずも沸き起こる罪悪感に顔を歪ませる。
━━━気に入らない。この上なく。
己れの体は震えていた。
「おい、お前。」
ちょん、と腕をつ突いてやる ━━━━━反応なし。
「コラッ!起きないか、このっ」
━━━━ペシッ。
「…………」
「……ん…」
そして
「・・・もう、食えないって…んにゃむにゃ…」
寝言
「………… い…」
・・・こ、コイツめ!舐めくさりおってっ……!
頭の中でブチッという音を聞くまでもなく中森は、むんずと腕を掴み取り、懐から徐に取り出したそれをカチャリと填めてやった。
・・・ハァ、ハァ、ハ… ━━━━━!!
ハッとして、思わずうつむいてしまった。されど、相手には何の反応もない。
・・・起きろよ
うつむいたまま、グイッと掴んだままの腕を引き寄せる。
・・・起きんか…!
そして、相手の直ぐ耳元へ顔を移動させて、すうっと息を吸い込み…
「いつまで寝とる気だ!貴様ぁー━━っ!!」
「イイィァァァッ━━━━!!?」
まるで弾丸のように、それは怪盗の耳元で躊躇なくぶっ放されたのだった。
「・・・アイタッ!━━い…って、えっ…警部!?」
勢いよく跳び起きる際、テーブルに脚をぶつけた。そして更に、ジャラリと己れの左手首で光るものと、それとを繋ぐ人物に…キッドは今更ながら動揺していた。
「・・誰に逢いたいって?ん?……キッド」
・・・アハハ…ハ、…ハハ笑えねぇぞ…こりゃ。
「またお逢いしましたね」
そう云う声には、全く動揺を感じられなかった。
・・・流石Nice!俺のポーカーフェイス。
「ワシの目の前で、爆睡かっとんでいるたあ…いい度胸だな、え?」
・・・しかも堂々と、大衆の面前に姿を晒しやがって
「何を考えているんだっ貴様」
「いや、その……少々近い、かと」
ニシシ…と、よく読めない表情を張り付ける。胸ぐらを掴んで食ってかかる中森に対し、キッドはやはり淡々と告げるばかりだった。
「当ったり前だ!こんなチャンスは滅多にないからなっ…!?」
「そうですね」
━━━━?
━━━━━ペロッ。
「・・・●×△■〜!!」
一寸おいて、顔を更に近付けてきたかと思えば…なんとキッドはチロリ覘かせた舌で、中森の唇を舐め上げたのだった。
相手が怒りにわなわなと震えているのをみとめ、ニヤリ。と口許を引き上げてキッドは続ける。
「落ち着いて下さいよ、警部☆」
「ばっ……キッド!こんのヤ…、舐めるなぁ!!」
ゴシゴシと口許を拭いながら、今度はネクタイを力委せに引き寄せた。
「はい、頂きました☆」
━━━ご馳走さま。そう云いながらシルクの指先を、先程失敬した中森のそこへそっとなぞるように当ててやる。
中森は、とっさにその手を払いのけた。無言を決め込むその顔は心なしか紅い。
・・・うわぁお☆煽ってる、煽ってるよ!オレ
ちょっとの遊びのつもりが…そして、次の瞬間。
「・・・っ痛」
右腕を後ろ手にとられ、ギシッという音とともに己れの体は沈んでいた。
右を背固定され、うつ伏せにねじ伏せられている状態である。
・・・ぐえっ……ちょっ、警部…!」
左腕も手錠ごと後ろに引っ張り込まれていて、容易には抜け出せない。
「どうだ!いつまでも舐めくさっているからだ。ばかもんがっ」
━━━━観念するんだな。
「…………」
さっきの衝撃で、シルクハットは飛ばされてしまったらしい。
・・・うーん。流石にちょっと辛いかもな…仕方ないか
「寝起きの人間相手に、容赦ありませんね」
酷いじゃありませんか?という、些か笑いを含ませたようなキッドのもの言いは相変わらずだ。
「吐かせ。凶悪な犯罪者相手に、寝起きなんて理由で戸惑ってられるか!」
━━━━凶悪、ね。