■文、etc
□逆盗聴の代償 中K中←東(ヘタレ気味)
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でも、それより。そんなことよりも。
「キッド…オメー、マジで警部のこと━━━」
━ザザッ、ザッ…ブチッ。
「って、オイこのっ…ちクショ!」
一方的に切られたらしく、突然沈黙を決め込んだそれを、投げ捨てようと腕を振り上げる。
「おっと待った。これは返してくださいね」
突然至近距離から聞こえた声にエッとなれば、掴まれた腕からヒョイっとそれは奪われた。
綺麗に消しさった後ニコニコと尚近付く顔に、思わず右脚を振り込んでやる。案の定ヒラリ交されたが。
「今晩は工藤探偵。先程はどうも、失礼しました♪」
「ん何なんだよっテメーは…こっち来んな!」
決してその手すら掴ませることはなく、どこまでも翻弄してくれる相手に、牽制の色剥き出しの探偵。
何を企んでいるのか…構わず近付いてくる怪盗。
「滅多にない機会ですよ…ねぇ?名探偵」
何かの術にでもかけられたのか…?何故か体が固まって動けない。
今すぐにでも、罪の元凶を秘めた唇につっ込んで、引き寄せたその腰が砕ける程に犯して、貪り尽してやりたいというのに!
「ずりーよアンタ」
「怪盗ですから♪」
「絶対ぇ捕まえさせねぇ癖に」
「怪盗ですから♪」
「それでも、警部を…っ!」
「怪盗ですから…」
━━ドクン。
動けないままの己れの腕の中に、ふわり落ちてきた体温に鼓動だけが速まる。
「な、何だよ…らしくねーな」
ぎこちなく動く両腕が、怪盗の背を静かに抱き寄せた。相手が、ぴくんと反応する。
「邪魔だ」
大丈夫、見ねーから。そう言ってハットを払い落とすと、怪盗の頭にそっと口付けてやる。
正直、こんな怪盗は見たことがなかった。堪らず興奮が理性を犯し始める。
「ギュッて…してくれませんか」
そんな消え入りそうな声を聞く前に、探偵の腕にギュッと力が込められる。
より深くに感じる温もりに、安堵感が押し寄せて怪盗の体から力が抜けていった。
+ + +
「いいじゃねぇか、別によ…」
「?」
「怪盗だから、追ってきて貰えんだろーが」
そうだろ?と、顔を離した探偵のぶっきらぼうなもの言いに、怪盗が顔を上げる。
「奪っちまえば?」
「奪う…?」
「全部。それも有りじゃね?」
本音を言うと、この怪盗に盗めないもの等無いと思う…。こいつという存在に、終始圧倒されっ放しだろうな俺、とも。
「俺は諦めちゃやらねーけどな」
「簡単に言いますね。…まあでも、貴方はそう考えるでしょうね」
シルクハットを頭に納め、いつものように不敵な笑みを浮かべる…その唇が近付いて。
━━━チュッ、クチュ…。
「んはっ…ぁ!?キ…」
「んっ…ふぅ。これはほんのお礼です」
「何の」
「逆盗聴のv」
何だそりゃ。怪盗が舌舐めずりをしたのを見届けた次の瞬間、煙が上がる。
数秒でかき消えた煙と共に、当然ながらその姿も無かった。
そして探偵には、あるはっきりとした認識が残されていた。
「彼奴は真性のどMだ」
ぽつりそう呟かれた言葉は、いよいよ以て闇に飲まれていく月だけが聞いていたようだった。
そして後日。
怪盗の決まり文句の一つ
〃親愛なる中森警部へv〃から、〃愛する中森警部へv〃に変えられており…更には。
「捕まーえたv」
「ぎゃあぁぁ!!」
暗い闇の中での〃逆〃鬼ごっこに余念がない怪盗と、それに飛び入り参加する探偵の姿が頻繁に見られるようになったとか。
━ 了 ━