■文、etc


□くろばが嫁になった理由 白*K
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これ程不安になったのは初めてだろうと思う。けど何がそうさせるのか?
それと何故こんなに…優しくされているのか理解できない。クラスメートだから…?だってこんなの嫌がらせにしかなり得ない筈なのに。

声を上げるまいと必死で堪えるも、不覚にもとけ出しそうになる…身体の疼きに信じられない程甘い吐息が漏れてしまった。



「ぉ、ぃまっ…ッァ、ハァ」

再び覆い被さる影は酷くスローモーションに感じた。
持ち前の長身を見事に生かし、その身体全体で押さえつけられては、此方はどうにもならない。

「何故ですか?KID」
「…ンぅ…ッァ…」
ゾワゾワと背から迫り上がってくる酷く甘い痺れに、身体は蕩けてゆく。
答えを促すように熱い耳を食まれた後、チクリと痛みが走ったかと思えば…その肩にくっきりと痕が残されていた。
不意打ちに不意打ちを重ねられ、未だかつてない未知の感覚を自ら辿ってゆく。

「何故…怪盗なんてしているんですか?」

首筋から鎖骨の辺りにかけて執拗に舌が這わせられ、KIDは目を堅く閉じたまま小さく声を上げて頸を振って逃れようとするのだが…。


…くっ、なんで…っこんな目に。どうして抜けられないんだよっ相手はあの白馬なんだぜ!?
奴の手が俺の肌に触れる度にそこが熱を持ち始めるようだ。
けど、あんまり優しく撫ででくれるもんだから…って…マジ、かよ。
誤作動にも程があるだろうっ俺…!

「!」
生理的なそれが目許に滲んでしまうのも致し方のないことなのだが、やはり悔しい。

「…ッう…な、っんぁ…!?」
シャツから覗いた吸い付くような肌を滑る長い指は、同じく悦び堅くなった其処をクリッと弄り始めた。

…ちょっ、んなところ舐めるなっ、噛むなって…ぁ!

あー…俺、胸のコレも感じたんだな。
などとぼーっと過ぎらせながら、うっすらと目を開けた。


目の前に居るのはクラスメートで探偵で。
結構綺麗だけど、ちょっと否…かなり鬱陶しい男で。

男で――


ほんのりと色めき上気していく身体は、やがてその歓楽の中心…下肢のつけ根の疼きまでも導き始める。

「ァァッ…ッハ、うっ」

決して嫌な訳じゃない。だから…怖い。

「KID、」

怪盗は、己をこんなにまでさせてしまう相手をキッと睨んだ。

「!!?」
だが、見なければ良かった。

…なんて、眼をしてんだよコイツ!
思わず唇を噛み締めて目を伏せる。首筋を冷や汗が伝うのが分かった。

絶えず寄越される愛撫に、着実に怪盗の強張りは解けていく。
更にはそれに気づいたように、僅かに震わす肩ごと抱きすくめられては…。
まるで恐ろしい程にすんなりと、怪盗はそれに応えるように探偵の背に腕を回してしまったのだから、世話はない。


…別に恐れている訳じゃない。
よくもやってくれたもんですねぇ探偵君?


文字通り密着したまま、胸、腹、腰を撫で上げられていったならば息が上がり。
熱い吐息に耳が濡れ、耳穴に陥落しては押し寄せる、歓楽の波に飲まれてゆく。

「俺が…怪盗をしているっ理由は――」


「っ!?」
不意に探偵の手が、怪盗のその中心へと伸ばされた。
カチャカチャという音が、朦朧とした意識下でもやけに気に障ったのは何故なのか。


「…っはぁっ…はぁ…く、ば探偵?」
「――っすまない!!」
「ぇっ、ちょっ…んう!?」


当に今、欲してやまない其処へと手が差し入れられんとしたとき――しかしてその手はスッと離れていった。

軽い失望を感じる間もなく、目許のそれがカシャリと音を立てるのとほぼ同時に、右頬が光に濡れる。
遮ろうとした手は押さえられ、相手の唇の感触に全ての感覚は奪われてしまっていた。

腕を力なく横たえる。
いつの間に出ていたのだろうか。淡い光が、二人影を色濃く映し出していた。

ほんの一瞬のこと。たがそれでも充分だったのだ。


急に風の冷たさがリアルに感じられ、次第に熱も収まりをみせ始める。

身体をくたりとさせたまま、怪盗は唯茫然とその早々と去る背中を見つめていた。
己の、それを映している瞳の色さえ知らぬまま。

ゆっくりと身体を起こしてから、小さくクソッ!と零した怪盗の中には…しっかりとそのノイズが残っていた。



「どうして…っ」

一方で。探偵の絞り出したような呟きは、夢中でかけ降りた階段の隅で人知れずかき消えていったのだった。


その手が止まってしまった己を恥じるべきなのか?それとも…。

答え等、全く以て意味を為し得ない。それは確かに望んでいたものだったのに。この心がよしとしない…何というべきことだろうかこれは。

「…ふう」

彼ならば、どうでも上手く切り捨ててくれるだろう。そんなことにすら期待を抱いてしまう。
否それでも、引き下がることはできなかった。



  + + +
星一つない空を眺めては、また幾度めかの汗が伝った。

この手に準ずるがままだった彼の人を思い起こし、また呻くように俯きかける――そのとき。

コツ。コツと闇の向こうより、靴音高く響かせながら現れるその気配。
纏う雰囲気の、その全くその内を測りし得ない様はやはり稀代の大怪盗たる所以と言うべきか。

かつてのあの対峙より、確かに妙に執着している己を知った。
逆に投げかけられた問いへの解答を見事、否当然の様に彼へとつきつけてやり。
皆と同様に懺悔に崩れる姿を晒して、この浮き世劇は幕を下ろすものだと思っていたが。

明るみで笑う声にもいちいち反応してしまう。

…追いつめられて君は燃えるタイプなのか?


「……KID」


―――クス…今晩は。ご機嫌麗しゅう、白馬探偵


まぁ何というか、この時点で既にこの白い存在に呑まれかけているらしいと感じる。
あんなに掌に人字をなぞったというのに、喉奥からは一向に何も発せられない。
まだあの時の方が、冷静さを保てた様に思う。
いつもながら、恐ろしい生き物だとぼうっと考えた。

「おっと。少々遅れてしまいましたか…これは失敬」

そう言って白い鍔を引き上げてニッと笑ってみせる怪盗に、やはり別の影をダブらせて見えるのは今更だが。

それが、よりこの存在の如何に危うきかを思わせるのだと気づいたのは…今この瞬間かもしれない。

決して遠くはないこの距離で、佇む彼の人のシルエットが揺れて映った。
と思ったらもうそこには居なくて。

「……っ!!」
「そんじゃあま、聞かせて貰おっかな」
「……素直に言わせてくれる気はあるんですか?」

今更警戒でもしているのか、何の威嚇かは知らないが。後頭部に押し当てられるものが、今の状況を悠然と物語っている。

「別に。これは此方のちょっとした都合で…気にすんな」
「ちょっとやうっかりで引き金を引かれでもしたら…困るんだが?」
「ああ。だから、守備よく頼むよ探偵君」

ほんの気休め程度だとでも言うのか、軽く当てがえられただけのそれに隙はない。
非常にイレギュラーなこの行為に、沸々と心から上がってくる感情に、探偵は思わず口を開いた。

「………ちょっと、いいかい」
「何?」
まさかこんな形で。散々思考を、日々を狂わされ悩まされ続けてきた存在の急所を握らせて貰えるなんて思わなかった。

故に、自称この怪盗専任の探偵はそれなりに思い描いていた。
それは神聖かつ厳粛なる儀式の様なもので、闇夜にうち震える月の淡い光の中で悶える彼の人の、その手を取り上げて…。

「おい、何をブツブツ…」
「…傳くように跪いて手を取って、真っ直ぐに瞳を見詰めてだね…」

こうやって。と手を下ろさずに振り向いては、鋭い光を放つその瞳を探偵は真っ直ぐに射抜く。
そのままゆっくりと手を伸ばし、ぴくり震えた怪盗の頬に触れた。

「この…額にぶち込んじまうかもよ?」
「物騒だな。何をそんなに焦ってるんだい」

確かに今己の額の真ん中を銃口が捉えている。だが先程と同じく、その先のほんの微かなブレを探偵は見逃さなかった。



―――まだか。もう少しかかるか?


「僕は耳が良くてね。目もいいけど…それに趣味もいいし」
「それに敏感だし?」
「君程じゃないね」

だが。フッと顔を綻ばせながら、冷えたその頬を撫ぜる探偵の手もまた然り…。

…その肌で、感じるといい。この一探偵渾身の想いを…!

「何を…焦って等は」
「フーン?…それじゃぁ、ちょっと此方に来たまえよ」
「…はっ、!?ってちょっと、そっちはっ…!」
「どうかしたのかい」
「い、いや…別にっ」
「…とりあえずその銃を下ろしたまえ。話はそれからだ」
「おま…、立場解ってるのか!?」
「照準の定まらない銃口なんて恐るるに足らないよ」
「……よく言ってくれますね、白馬探偵。流石…浅はかなり哉」
「…えっ」
「ほら……バーンとやられたくなかったら、早く戻りなさいこの馬鹿野郎。そしてとっとと手を退けるんだな」
「そんな冷ややかに笑わなくても。今貴方は、この淡い光を纏う月の美しき幻影です。しかし時にその輝きは凄みを増し、魅せる者をも引きずり込む」
「…。……げに、鬱陶しきは」
「何故僕を軽蔑しないんだ?」
「もうしてますけど?」
「…なら、何故今日此処へ呼んだんですか」

―――あの時話した通り。答え如何によっては、貴方に委ねてもいい、と。そう言ったでしょう?

「逃げる…いや逃げないのか?」

「「何故」」

「いつもは軽口叩いては否定している癖に?あー…そうでしたっけね」



…まだ、いけそうか?そろそろ動いても良さそうなもの。

今回ギリギリの線を選択しているだけあって、流石の怪盗も内心冷や汗ものだった。
よもや目の前の探偵が、そんなことに気づいているとは思えないが。




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