■文、etc


□中*K
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中森は正直戸惑っていた。この先が見えてこない。相手の反撃を期待したのだが、全くと言っていいほどの無反応。
更に、何やら部下達が突入してきそうなそんな音もしてきている。
かなり際どい状況ではなかろうか。
この男は一体何を考えているのだろうと、ゆっくりと体を引き剥がして様子を窺う。

何故自分はこうしたのかと、後々になってから互いに思う筈だった―――だがそれは中森が覚えていればの話。


「違いますよ」
突然キラリとモノクルが光った。酷く冷ややかな声が落ち、俊敏なる動きが中森の顎を捉えていた。キッドは薄く笑いを浮かべながら顔を近づける。

「キッ…、」
「残念ながら…時間オーバーですよ警部。」
こんな術しか持ち合わせていない己れが憎い。しかしあなたは忘れなくてはならない。

「けれど…私は―――」

いつでもあなたを想っては身を焦がし、想っては失望感に打ち拉がれていますよ警部。

眉間に僅かに皺を寄せたまま寝息を立てているその額にキスを落とし、立ち上がろうとしてふと気づく。

苦笑しながら、節くれだった手をそろそろと腕から外したキッドはそうっと頬に擦り寄せた。
やや高い熱を含んだ大きな手。
そしてそうっと手を戻してから、キッドは天井に開けておいた穴より音もなくその場から立ち去った。



   +   +   +


「あーあ…」

持て余した熱っぽい体に夜風は心地よく吹き過ぎていく。

ちゃちゃっと宝石を戻して、また飛び立ち少し距離をいった所にある大きな木がそびえ立つ丘へ降りた。
さらさらと風が草の上を滑っていく音に耳を澄ませる。


うとうととしかけた矢先、その目に映った…野菊が一輪風に揺れている。

どんなに揺さぶられようとも凛としてそこに在る健気で、それでいて…儚い花。

さながら風は―――。

あなたは笑うでしょうが、私にはそう思えて仕方ないんです。
そして譬えあなたが忘れたとしても、私だけはそれが叶わない。

変わらずにまた…あなたの上から吹過ぎるだけ―――。


「あー…ぁ」

ゆっくりと閉じた瞼の裏で、野菊が風に揺れて笑っていた。





        ##了##
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