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いつの間にか消えてる……><
◆あけおめ 白K白 あみお
繰り返すおとに、それがただただ今を認識させるモノだとひたすらに嘲笑し、唇を閉ざして虚を仰いだ。
散々みてきた空の、それの巨大さに思わず目が眩んで羽根を閉じたとき。
咄嗟に掴んだその黒い切れっ端を、ズルズルとずり落ちそうになりながらも握り締めて離さずいたらまた、あのおとがきたのだった。
「何度目になるかな…」
ひとつも笑わずに、この手を捉えられたとき、うっすらと胸の奥に浮かぶものは。
何とも言えず暗い色を…していた。
「お帰り。…良かった」
振り向いては腰を上げるおと。
そして、書きかけのレポートがパラパラと捲り上げられる音にもまるで明瞭なその響きが、くつくつと近づいてくる。
ぼんやりと眺めていると、不意に足を止め、途中で踵を返して台所へ向かっていった。
それを見送りながら、バサリとひと払いしてずんずんと中へ進み入る。
ピッという音が、途端に日常へと押し戻した。温風に思わずふうと息を零すと。
「第九か…」
どうやら年末風物詩、第九演奏会のDAT録音を流しているらしい
今となっては某新世紀アニメタイトルしか浮かばないな。と鳴り響くそれの音量を上げた。
「今年の指揮者はカン〇ルラン氏だったらしいね」
「…しらねー」
そういえば以前、課題の一つに指揮者の名を答えよというのがあったな、なんて要らぬことを考えてしまうぐらいだ。
そっとソファに沈みながら、束の間にふっと目を細めた。
カチャカチャと細かな音が止む。そうして向こうからマグカップを両手に姿を見せた。
「ココア。とびきり甘くしておいた」
「…どうも」
確かに…甘い。
どすの効いた、低く唸るようなBGMの中、にっこりと差し出された黒いハートのマグカップ…に加えてこの極甘さ。ああ…。
と。だが而して、悲しいかな既に…酔っていて猛烈に渇いていて…求めていた。
「君は…大分冷えているね」
「ちょっコレ…熱すぎ」
求めていた。求めて、いる。今このときもずっと。ずっとずっと…追っている。
夢のような果てない物語の産物を。取って変わることなき真実を。
ひたすらに信じて、動いて。動いて動いて動く…動くしかない。
「もうすぐ年が変わるね…」
ズズっ。とそうして首元をくすぐる甘ったるいおとの響きに、耳を毒されながら…そうだ。
来年もスケジュールは目一杯入っている。まるで息継ぎもなく、真っ暗な海を泳いでいくような…あの苦しさが。
指先から凍えさせ、酷く痺れてくる。息が苦しい…くるしい。
「…っがっつくな、よ」
「失敬…」
「…っぁ…っん」
冷え切った肌にかかる吐息がくすぐったい。横から長い腕に抱かれて、すっぽりと身体を包まれてしまう。
頑なな腕を解かれ、頬をすり寄せられた拍子にハットがふわりと転がる。
抱きすくめられた…凍えていた身体が綻んで、今度は指先からゆっくりと甘く痺れが広まる。
ゆっくりと。ゆったりと身体を預けているこの優しい温もりに眩暈がした。
ヒクっ。と晒した喉に、チュッとおとが触れるだけで何故か…解けて、視界が蕩けてしまった。
ああ。どうして。コンナニ…ナンデ。
言うなれば今、初めてのこの問いかけ。
だがそのおとの優しい渦に、既にその答えごと捕らわれて、巻き込まれてぐるぐると目を回して…いたい。
どこか遠くに。二人で吸い込まれて行ってしまいたい。
ふわふわと、どこまでも思考は食まれ、寛げられた胸元に淫らな滴りが残された。
そうしておとの渦巻きが、大きくうねり出した。
「いよいよだね…」
俗に唱われる、歓喜のうたへと…楽章が変わった瞬間。
「い…そ、…そのまま」
「イケるだろう?」
徐に下脚を撫で上げられ、反応したのを好いことにその昂りは…性急に内へとねじ込まれた。
押し上げられる感覚が抜けないまま、ズッズッと中をゆったりと突かれる。
「いいよ…」
するりと此方の自身まで包み込まれ、これもまたゆっくりとしごかれていく。
むくり勃ち上がりを見せたそれに、今一度大きく突き上げられて僅かに息を漏らした。
グググ。と心許ない腰を自らそろそろと動かし始めると、フフンとばかりに顔を振り向かされる。
ひんやりとした指が、ほんのり上気した頬に心地が良い。
「んっ…(くちゅ…くちゅり)」
口内へと挿し入れられ、かき回してくれる無法者へ此方もひたすら吸い付き、ねっとりとしゃぶってやるとする。
「こらっ…やめたまえ」
そう言って珍しく少し上擦ったその響きも耳に心地良い。
「へっ…」
甘噛みをして、更に更にと先を促すようにそっと口付けた。そして。
「お前といると、わかりすぎてオレ…ダメになる」
性急な動きに、荒く息を吐き出しながら小さくポツリと口にすると。
「いいよ。もっともっと…ダメになればいいさ」
但し、それは僕の前でだけでね。と、そう囁きながら下脚の片方をぐっと抱え上げて一層激しく腰から突き上げた。
「く…っ…ぁああっ…」
大音量で耳に、身体に渦巻くその歓喜のおとの中で。
そのおとに未だに流されながら、未だに独りきり。けれど、それでも…。
「ハッピーニューイヤー、黒羽君。それにキッド…君にまで一緒にいられて嬉しいよ」
「…私もですよ。白馬探偵。今年も、宜しくな♪」
不思議と嫌な感覚がしないまま。これでいいのか。いや悪いのか。関係ない…そう。
けれどもいつかきっと…その時は来るのだから。
「今年も妥協はしないぜ?ん?」
「望む所だよ…」
互いに引き寄せ合い、そして一方はまるで挑むようなキスを…乾いた唇へ送った。
2013 1・1 あけてしまいました おめでとうございます
2013/01/01(Tue) 13:56
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