長編

□初めての仕事は猛獣でした
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みんな、初めての仕事なんてわからないことだらけだろうし
どうしていいのかわからない者が大半だろう



けれど………






「………」

「ガルルルゥ」





ライオンの遊び相手なんていう仕事が、芸能事務所にあるだろうか



シャイニング事務所に入社した私
けれど、芸能関係の仕事なんて初めてなことで
何からしていいのかわからない
それは社長もわかってくれているようだったので
とりあえずは社長の身の回りのことをしてもらうと言われ無理やり入れられたら部屋には大きなライオンがいた





「(仕事覚える前に命無くなるわ!!)」



どうせあの社長のことだから、こっちのことはどこかで見ているのだろう
ライオンと遊ぶたって、何すればいいのやら
空腹の時に近いちゃいけないくらいの知識しかないんだけど





「えっと。はじめまして、この度シャイニング事務所に入社しました雪野亜弓と申します」

「ガルルルゥ」

「今日はあなたのご主人が忙しいので私があなたの遊び相手になりました」

「ガルルルゥ」




とりあえず挨拶はしたものの
相手はガルルルゥとしか言わない
そりゃ、いきなり見ず知らずの人間が現れたら威嚇するよね
どうお近づきになろうか………



「お腹は空いてる?」

「ガルル」

「空いてないのか…いつも一人?違うか、一匹?」

「ガル」

「そりゃー暇だよね。この部屋は広いけど、あなたからすれば狭いしね」





なんで普通に会話が成立しているのかは自分にもわからない




「とりあえず遊びます?ここにボールもありますし。名前は……ロドリゲスさんであってる?」

「ガル」

「おぉ、あってた」




とりあえず、私がロドリゲスさん用の大きくて硬いボールを投げるとロドリゲスさんはボールを私の所に持ってきてくれる
尻尾を振るのをみると、イヤではなさそうだ
ライオン=猛獣ではないようだ
ネコ科というだけあって、仕草などは私たちが馴染みのあら小さなネコと同じ

ロドリゲスさんは段々と楽しくなってきたようで動きが激しくなっていた

社長もあれで忙しいのだろう、ロドリゲスさんと遊ぶ時間などあるはずもない
ボールを持ってくるスピードも上がってきたな
と呑気に構えているとロドリゲスさんはそのまま私に突撃してきた
百獣の王を支えきれるわけもなく、私はそのまま床に倒れる
そのときに、ロドリゲスさんの爪が腕を掠め痛みが走る



「うっ」



私のうめき声に気づきロドリゲスさんは私の上からすぐに体を離す



「いたー。さすがライオン、力が半端ないな」




腕をみると真っ赤な血がダラダラと流れていた
これはグロテスクだ
ライオンの爪を掠めてこの程度ですんだのだから
よほど運がいいのだろう
ロドリゲスさんはこっちをずっとみている

心配してくれてるのかな?




「大丈夫ですよ。包帯巻いてれば直ぐ治りますし。でも、ちょっと休憩させてね?」




そういうとロドリゲスさんは黙って体を床に預けた
とりあえず応急手当てだけすませると
ロドリゲスさんの上に身体を預け、私の話に付き合ってもらう




「なんだか、この数ヶ月でいろいろな事がありまして……今ここにいるけど、これからどうなるんだろうって不安だった。でも、なんかひさしぶりにこんなにのんびりできた気がする」

「……グルル」

「こっちが遊んでもらった感じになっちゃいましたね。またここに来てもいいですか?」

「ガルッ」

「じゃあまたおじゃまさせてもらいます」




頭を撫でると目を閉じて黙って撫でられるロドリゲスさん
ライオンと友達ができてしまった














(てなことがあって)

(お前は猛獣使いにでもなるつもりか?)







 

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