長編

□バレンタイン
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仕事を終わらせると急いで帰宅
スーパーで買った材料を広げ
一緒に買ってきたレシピ本を開き手順を見ていく

材料を混ぜ、形に流し込みオーブンへ
冷やし固めるものは冷やすのに時間がかかると思った私は
焼いてすぐに食べられるものにした
フォンダンショコラという少しオシャレなものに挑戦する

蘭丸の帰ってくる時間が遅ければまた温め直せば済む

焼いている間にスマートフォンを取り出し蘭丸にメールをする




−仕事終わりに私の家に来てください−



シンプルに一行だけ文を打ち込み送信
後は焼き上がりを待ちラッピングをすれば完成
まだかまだかとオーブンを眺めているとポケットのスマホが震える
蘭丸からのメール
内容を確認すると私は急いで玄関へと向かった





−今、お前の家の玄関にいる−




ドアを開けると本当に蘭丸が立っていた





「早いね」

「そんな時間のかかる仕事じゃなかったからな」

「おつかれさま、どうぞ上がって」




蘭丸の荷物を受け取り上着を脱がす
朝の時と同じように私をじっと見つめる蘭丸に問いかけた



「なに?」

「なんでもねえ」

「人のことじっと見てたくせに」

「うっせ」



そういって、慣れた足取りで部屋へと上がり込んだ蘭丸の背中を見つめる
受け取った荷物は紙袋でその中には可愛くラッピングされた箱がたくさん入っていた
きっと会う人会う人に貰ってきたのだろう
少し、ほんの少しモヤッとした気持ちになった

リビングに行くと数ヶ月前に買ったソファーにドカッと座った蘭丸
その隣に私も腰を下ろす




「ソファーなんか買ったのか」

「数ヶ月前に…そっか、蘭丸が私の家に来るの久しぶりだもんね」




安いわりには中々の広さの部屋にはソファーの一個くらいは余裕に入った
久しぶりの場所に当たりを見回した後私に自分を家に招いた理由を聞いてきた



「えっと…恋人のイベントになにもないのはやっぱりダメかなって思って、今ケーキ焼いてるの。」

「べつにいらねーよ」

「何よその言い方…綺羅にヤキモチ妬いたくせに」



そういうと蘭丸はギロッと私を睨みつけた
あっ、怒った



「妬いてねえよ!勝手に解釈すんな」

「あっそ、なら綺羅に焼いたケーキ明日にでも渡しに行ってくる」




そういって台所に戻ろうと立ち上がると腕を強く引かれ体はソファーへと逆戻り
さっきよりも怖くなった顔は私の目を真っ直ぐに見つめる離さない



「あいつには会うな」

「なんでよ」

「元彼に会う奴があるか!」

「元彼と友達に戻って会う人はたくさんいます」

「テメー………」

「…はっきりしなさいよ、ロックじゃない」



ロックじゃないと言われて少し凹んだのか数秒私から顔を逸らし
もう一度その強い視線を私へと戻した





「嫉妬してたよ……これで満足か」

「うん……私も嫉妬したから」

「はぁ?いつだよ」

「彼女の家に他の人から貰ったチョコレートを持ってくる彼氏に」

「………」

「でも、蘭丸が私だけ見てくれてるの知ってるからいいの」

「お前…よくそんな恥ずかしいこと言えるな」

「バレンタインだから、少しくらい甘いムードになってもいいかなって」

「ならもっと甘くしてやる」




そういって私をソファーへと押し倒し少しずつ顔を近づけていた
告白されてからされていなかった行為が今されようとしている
私も黙って目を閉じ、静かに待った
けれど、タイマーの音にお互い動きが止まる
しばらくして私は今の現状に恥ずかしくなり蘭丸を押しのけ
オーブンへと向かった

うまく焼きあがっているのを確認し蘭丸の方へと視線を戻し「た…たべる?」と聞くと
少し納得のいかないような表情のまま「食う」徒いった蘭丸が可愛く思えた








 ((あと少しだったのに))

 (おいしい?)

 (…うまい)






 
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