短編

□片思い
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片思いとはツラいものだ


だって、コッチが好きなことなんて知らずに
向こうは私の心臓を壊してしまうのかと言うほど、さりげない行動で私をメロメロにしてしまうのだから


今こうして私が見ているだけなのに彼は私の心を簡単に奪ってしまう





「やっぱりカッコイイ・・・」





私の片思いの相手は、一十木音也
外で元気いっぱいに走る姿をずっと眺める。


優しくて、元気で、皆の人気者
少し天然という可愛い部分も持ち合わせている
そんな男を女子が見逃すわけもなく彼は女子からの人気が凄まじい

その中の1人である私雪野亜弓は、いつも遠くから彼を見つめるだけ
自分から話しかける勇気もない私には片思いがお似合いなのだ





彼を好きになったのは1年前のこと
私は家の鍵を無くすという大失態をしでかしてしまった。
どこを探しても見つからず、日はどんどんと沈んでゆく

1人暮らしなので、家に誰かがいるわけもなく通った道を徹底的に探した






「はぁー・・・ない。どうしよう、最低はどこかで野宿だな。」




あんまり野宿とか気にしない性格なので、今日はあきらめようと、膝についた土をはらい
カバンを持ち上げて帰ろうとした時だ、彼がいた









「あれ?雪野じゃん」

「あっ一十木くん」

「こんな時間にどうしたの?」









その時は彼をただのクラスメイトと思っていた私は隠す理由もなく事情を話した


すると彼は自分のことのように慌ててカバンをほり投げ、そこら中を探し始めたのだ








「いいよ!もう暗いし」

「ダメだよ!女の子が野宿なんて、危ないでしょ!!」








そう言って1時間くらいして、一十木くんが茂みの中からカギを見つけ出してくれた








「ありがとう」

「へへ、どういたしまして!」






満面の笑顔を見せて、私の手の上にカギをおいた
その時の一十木くんの手の温もりに、私は顔が熱くなっていくのを感じた




あれ?



なんで?




なんだろう、胸が苦しい


そんな私を見て一十木は「雪野?」と言って私の顔を覗き込んだ
それが無性に恥ずかしくて
私は「大丈夫!ありがとう!!」と早口で彼にお礼を言いその場を後にした。

その気持ちに気づいたのは、次の日に一十木の顔を見た時だった





あぁ・・・私は彼を好きになったんだ





それからというもの
一十木くんとはまともに話すことが出来なくなり、遠くから眺めるという感じになってしまった


前は普通に"おはよう"とかも言えていたのに、今はそれすら出来ない




そんなことを思いながら外に視線を戻すと、一十木くんがいなくなっていた




もう帰ったのかな?




気づけば空は少しづつ赤く染まっていた
いったい何十分ここで昔を思い出していたのだろう・・・
カバンを肩にかけドアに向かおうとしたときだ
ドアには息を切らした一十木くんが立っていた



えっなんで・・・?







「はぁ・・・はぁ・・・よかった、間に合って」






間に合って?
私に何か用があるのだろうか・・・?

顔を見るのが恥ずかしくて、バッと俯いてしまう






「・・・雪野ってさ、俺のこと避けてる?」





一十木くんの言葉に心臓の速さと苦しさが増す

もしかして・・・バレたのだろうか





言葉が出てこない・・・
すると一十木くんは次の言葉を発した






「俺、雪野に嫌われるようなこと何かしたかな?」






嫌われる・・・そんな事あるはずがない、寧ろその逆なのに
私は顔を左右にブンブンと音がなりそうなくらい振った
そして、喉の奥からやっと声が出てきた







「嫌いじゃない・・・嫌いじゃないから」






どうしてもそれだけはわかってほしくて、消えそうになりながらも声を出す

すると、一十木くんは「よかったー」と息をはいた








「一緒にカギ探したときから全然目も合わせてくれないからさー、でもそっか、良かった!!」





一十木くんは本当に心から安心したという表情をしていた
そんな一十木の笑顔をあの時のことを覚えていてくれたという喜びで胸の中の気持ちが溢れそうになる







「ごっごめんね。なんか、妙に恥ずかしくなっちゃって」







本当の気持ちだ、ウソではない・・・。






「そうなの?雪野って以外に照れ屋なんだね」






あぁ・・・またその笑顔

もうこれ以上、私を夢中にさせないでほしい





「それだけ確認したくてさ、走ってきたかいがあった!じゃっまた明日!!」





そう言って一十木くんは大きく手を振って帰っていった。



走ってきた?

わざわざ、こんなことのために?




胸が締め付けられる






どうしてアナタは私をここまで熱く夢中にさせるのだろうか・・・。













    
   
  

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