Dendrobium Phalanopsis type

□第1章
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「かばん、よし。 お財布、よし。 商品、よし。 調子と天気もよし!」

 指差し確認しつつ言葉でもきちんと確認。
 よし!最終確認OK!準備万端。
 なんてところでおばさんが馬車の荷台に顔を覗かせる。

「準備はいいかい?」
「あ、はい」
「じゃ、行こうかね」

 そう言っておばさんが顔を引っ込めるとすぐに馬車は動き始めた。
 今日は朝市の日。
 私の街では週2回、日曜と水曜に朝市がある。
 パン屋であるおばさんはそこで朝市限定の小さなカフェを開き、焼きたてパンをみんなに振る舞っている。
 私はその横で自分で育てた野菜や果物を売っていた。とはいっても、量はあんまりないんだけど。

 市に着くと、すぐさまお店を組み立てて品物を並べる。
 市に着いた時、あまりいなかったお客さんの数は、店の準備が終わる頃には倍以上に増えていた。

「さーて。忙しくなりますよ〜♪」

 楽しそうに言ったおばさんは早速接客してる。
 さすが、朝市で人気の店。
 私も負けられません。
 ドキドキしながら(何年もやってるのに未だに緊張する…)、声を張り上げる。

「新鮮な野菜、果物、いかがですかー!!」

 するとすぐに、いつもひいきにしてくれる魔術師のおばあさんが店を覗きにきた。

「ニーアちゃん。こんにちは」
「あ! こんにちは!! お久しぶりですね。 最近来て下さらなかったから、ちょっぴり心配してたんですよ?」

 私の言葉におばあさんは「アハハハ」と楽しげに笑う。

「ちょっと旅行してきたのさ。…夫と二人きりで♡」

 後半はわざらしくと声を潜めて言うと、おばあさんはまた楽しげに、今度は「ククク」と笑った。

「あら、ラブラブなことですね」
「アハハハ! アンタ言うわねぇ〜♪ それはそうと、珍しいモノ売ってるじゃないか?」

 言いながらおばあさんが手にしたのは緑色のリナ(小ぶりの林檎の様な果物)。普通、リナは赤い。なので、今売っている色のリナは珍しい。

「それ、今年初めて実が付いたんです。だから、数が少なくて…」
「なるほど。早い者勝ちって事ね? なら、5つ買うわ」
「決断早いですね」

 苦笑する私におばあさんは笑って言う。

「折角ニーアちゃんが育てたんだ。それに私自身、珍しいモンには目が無くてね♪」
「なるほど。―はい。お待たせしました!」
「これで足りるかい?」

商品と引き換えにお金を預かる。

「……はい! ぴったりです」
「そうかい。―じゃ、また来るよ」
「ありがとうございました!!」

おばあさんにお礼を言うと、私はまた、声を上げる。

「果物、野菜、いかがですかー!!」
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