Dendrobium Phalanopsis type

□第1章
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 その後、緑色のリナがあったからか、はたまた、魔術師のおばあさんが色違いのリナの話をして回ったからか(おばあさんから聞いて来たと言う人が結構いた)、リナ以外の商品も飛ぶように売れ、7時に売り始めて約2時間後には完売。
 暇になってしまった私はあと2時間どう過ごそうかと考えながらとりあえず店を片付ける。
 そしてバラバラになった店を紐で括って馬車の荷台に詰め込んでしまうと、おばさんのカフェへと。
 もうじきおやつ時だからか、カフェは随分と賑わいをみせ、おばさんも忙しそうに動き回っている。

「おばさん! こっち完売した!!」

 私の言葉におばさんは「あら!」と忙しくも嬉しそうに笑う。

「早いわねぇ。やっぱり、緑色のリナのお陰かしらね?」
「うん! あ、何か手伝うことある?」

 「そうねぇ…」とおばさんは少し考えてから。

「じゃあ、悪いけど買い出しに行ってくれないかしら?」
「買い出し?」

 問い返す私におばさんは申し訳無さそうに応える。

「あぁ。本当はいつもみたいに2人で買い出しに行きたかったんだけどねぇ…。ほら、じき"フラム・フェスティバル"だろ? だからお客さんが多くって…」
「あぁ〜…。なるほど。―わかった。何買ってくればいい?」
「ちょいとお待ち」

 そう言うとおばさんはエプロンのポケットからメモ用紙とペン(常備品)を取り出す。さらさらと書き込んで私に渡した。

「後でお金は返すから、立替ておいてくれるかい?」
「はーい。じゃ、行ってきまーす!!」
「気を付けるんだよー!!」

 おばさんの言葉を背に、私は人混みの中へ踏み出した。
 普段より人数の多い朝市はいつも以上に賑やかだ。
 やはり、じき"フラム・フェスティバル"がある、というのが1番の理由だろう。
 "フラム・フェスティバル"とはこの国最大級のお祭りのことだ。
 精霊使いはもちろんのこと、魔術師や魔導師の人も参加して約1ヶ月間、開催される。
 お祭りでは屋台はもちろん、サーカスや大道芸師なんかもやってくるから賑やかなことこの上ない。
 でも1番の目玉はやはりお祭りのラスト3日間のコンテストだろう。これは2つの部門に分かれて行われる。
 1つは『精霊部門』。これは精霊使い達が自分の使役する精霊の美しさや力強さ、また、信頼関係の強さを演技やバトルなどで競い合う。
 もう1つは『魔法部門』。これも『精霊部門』と同じように、けれど今度は本人達が自分の技の丈を競い合う。
 どちらの部門も優勝者には王様から勲章を授かる。これを得た魔術師・魔導師、精霊使いだけが『大魔術師』・『大魔導師』、『精霊師』を名乗ることができた。
 ちなみにおばさんもフェスティバルでカフェを開き、ついでにおばさんの精霊が作った家具も売る。
 「何で家具?」って思うかも知れないけど、おばさんの使役するのは木造家具の精霊。名前は「ウッディ」。茶色のふわふわした髪の見た目5歳くらいの男の子だ。無表情だけどとっても優しい。で、家具を作るのがとても上手。
 え? 私?
 私は――出ない。
 そりゃ、おばさんのお手伝いはする。
 でもコンテストとかはでないし、お店も出さない。
 だって私は精霊が使役できないから。

 私の父親は王宮仕えの精霊師だったらしい。とはいっても私がまだ赤ちゃんだった頃に戦争で死んでしまったから写真でしか見たことがないんだけれど。
 一方母親も精霊師だった。でも契約するのがあまり好きじゃなくて、寧ろ「お願い」してたことの方が多かった。
 そんな母も私が10歳のとき、流行病で死んだ。
 だから今は母の妹にあたるおばさんにお世話になっていた。

「えーと…? お肉に食器、あと、テーブルクロスも買わなきゃ……ん?」

 メモを見ていた私はふと、メモの端に何やらメッセージ的なものが書いてあるのに気づいた。

『私の代わりに楽しんでくることも忘れずに♪』

「おばさん…」

 おばさんのこういう優しさが私は好きだ。
 ちょっとだけ、その言葉に甘えることにした。
 でもとりあえず、先に買い物をしよう。

「んと…。どの順で買おうかな…」

 生ものは最後がいいかな。あと、割れ物も後にして…。

 なんて、考えながら歩いてたのが悪かったのかもしれない。

"トスン"

「っ!?」

 何かに正面からぶつかった。
 すぐに人にぶつかったんだと気づく。

「っ、ごめんなさい!!」

 謝って、恐る恐る顔を上げ。相手の顔を見た。
 若い、男の人だった。
 少しクセのある髪は美しい銀。整った顔立ちに白い肌。そして、透き通る宝石の様な水色の瞳。
 今、その瞳は真っ直ぐ私に向けられていた。

『もしかして、怒ってる…?』
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