Dendrobium Phalanopsis type

□第1章
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 突然の言葉に思わず目を見開く。けれど、彼はお構いなしに言う。

「ずっとかけてんだろう?」
「…なんで……?」

 私が思わず呟くと彼は小さく笑う。

「態度でわかる。―そこもデューイ似か」
「……ぁ」

 また、同じ名前…。
何でこの人は同じ名前を言うのだろう。
 ―私のお父さんと同じ名を…。
 そんな事を想いながら、ついぼーっとしてしまっていた私の首筋に、いつの間にか彼の手が伸びていた。
 チャラリという小さな金属音にハッと気づいたときにはもう遅く。彼はペンダントのチェーンを摘んでいた。

「めっけ♪」

 嬉しそうに言う彼に私は諦めざるをえなくなってしまった。
 心の中で溜息をつく私の態度の変化に気づいたらしい彼はチェーンから指を離す。私はチェーン(ソレ)を引っ張ってペンダントを取り出した。
 胸元に碧い不死鳥(トリ)が姿を表す。
 と、それを見たとたん。

「…はっ」

 小さな溜息混じりの笑い声。

「ソレ?」

 彼の声に私はコクリと頷く。

「ちょっと、よく見せてくんね?」

 今更断る理由もないので、私は素直にペンダントを外すとそれを彼に渡した。
 ペンダントを受け取ると彼はまじまじとそれを見つめ、それから「ははッ」と笑う。

「こりゃ…わかんねーよなぁ〜…?」

 呆れたように呟くとペンダントを自分の掌に置いた。そしてそれを私が見やすい位置に移動させる。

「……?」
「よく見てな? まばたきすんなよ?」

 そう忠告すると彼はペンダントの側で鋭く指を鳴らした―次の瞬間。

「っ!!?」

 ペンダントが蒼い炎に包まれ、そしてそれが消え去ってしまうと――。

「う…そ……?」

 そこにはあの碧い不死鳥(トリ)の姿はなく、かわりに白銀(ギン)に輝く1つの指輪がチェーンから外れた状態で載っていた。

「な…んで…?」
「なんでもくそもねぇよ」

 呆然とする私の右手をとって彼は静かにリングを載せる。

「言ったろ? お前が俺の主だっていう証拠を見せるって」

 その言葉に思わず彼を見上げると、彼は不敵に微笑んでいた。

「ちょい、見て。お前の指輪のここンとこと…」

 言いながら彼は髪を掻き上げ左耳を見せる。そこにはリングと同じように白銀(ギン)の光を弾く少し太めのピアスがついていた。

「俺のピアスの模様」

 彼の言葉に従って、2つを見比べると……。

「…あっ!!」

 私は小さく声を上げた。
 そこには刻まれた紋様は全く同じもので…。

「これは…花?」
「ご名答」

 私の言葉に彼は応える。

「コイツは“ルリソリース”っつー花を抽象的に表したもんらしい」
「……」

 無言で紋様を見詰めれば、彼は微かに笑いながら声をかける。

「契約者の証には同じ紋様が刻まれる…。ソイツは絶対だ。――どうだよ?これでも信じらんねー?」

 彼の言うことは紛れもない事実…。事実なのだが……。

「えと… でも、やっぱり…」

 信じられなかった。彼と契約しているなんて。
 俯いてしまった私に彼は溜め息混じりにいう。

「ったく…。じゃ、なんか命令してみろよ」
「え?」

 思いも寄らぬ言葉にきょとんとして彼を見上げた。彼は呆れ顔だ。

「え?じゃねぇよ。こうでもしねぇと、お前信じないだろ?」

 まぁ、確かに。本当に彼が私の契約者だというのなら、私なんかの言うことでも聴いてくれるはずだ。
 ――たとえそれが、主従関係を表す行為だとしても。
 私は彼から目をそらし。少し考えて。それからゆっくりと口を開いた。

「……なんでも、いいんですよね?」
「ん?何なりと?」
「じゃあ…」

 彼を見上げる。宝石のように輝く水色の瞳をまっすぐに見据え、私は声を低くして言った。

「本来あるべき姿に戻った上で、服従の態勢をとってください」

 精霊は契約者にしか本来の姿を晒さない。まして、服従の態勢など以ての外。つまりこの命令に背いた場合、彼は私の契約者ではないということになる。

『絶対従ってくれないよね。だって、私、契約なんてした覚えないし…』

 1人心の中で呟き、彼を見上げると、彼はなんだか小難しい表情で苦笑している。
 ……どうやら無理らしい。

『――やっぱり…』

 導き出された答えに私が再び俯いたとき。

「いいぜ。別に」
「そうですよね。無理ですよって……え?」

 驚いたことに彼の言葉は私の予想とは真逆。思わず顔を上げれば、彼はフッと楽しげに笑みを零す。

「絶対無理だって思ったろ?――従者(オレ)にとって主の命令は、それこそ絶対なんだよ」

 私が思っていたことを見事に当て、自慢気に話す彼。しかしすぐにまた困った顔で辺りを見回す。

「…とは言うものの、狭すぎんだよな。ここじゃ」
「狭い…?」

 「そ!狭い」と頷くと彼は悪戯っぽい笑みを浮かべ、私の耳元で囁いた。

「オレ、デカいから」
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