main

□if
2ページ/2ページ







『だって本気だったら忍足君が困るでしょ?』




名字の一言に、
何も言えなくなった。


あの時、
名字が思いを打ち明けてくれたあの日。

自分の中で芽生えていた小さな気持ちより、
俺は跡部の想いを選んだ。

徐々に大きくなる自分の気持ちを見ないようにして。




俺達の一番いい結末の為にと選んだ答えは、

実は、色々な人間を不幸にしとるんやないか?




ふと、そんな不安が頭を過った。






『忍足君、からかってごめんね。私もう行かないと』


「あの、名字…」


『…ん?』




ああ無理して笑ってる。

そんな顔せんといてくれ。






「また明日な…」


『うん…また明日ね!』




俺は名字の背中が見えなくなるまで見つめていた。


本当にこのままでええのか?

名字は全てを分かった上で、俺のことを…




「くそ…」




気付けば俺は名字へ向かって駆け出していた。


何て言うつもりや?

追いかけて、何て?


それでも身体は一秒でも早く名字に会いたいと動いている。


名字、俺はお前が…












『もう限界だよ…』




やっと見つけた名字の姿。

隣に跡部がいたので、とっさに隠れてしまった。




『友達ってこんなに辛いんだね』


「今更気付いたのかよ、バーカ」




泣きじゃくる名字を跡部が抱き締め、
名字の泣き声は更に大きくなった。




「だから早く俺にしちまえって言ったのに」


『だって私は忍足君が好』
「もう黙れ」






目の前が真っ暗になった。

やっと認めたこの想いの

行き場はすぐに閉ざされてしまったから。






数日後、

跡部と手を繋ぐ名字を見て、
どれだけ後悔したやろ。


全員がそれぞれの気持ちを知り、
過ごしてきたこの1年。




今、君は

君を一番思っている男の隣で笑っている。




卑怯な俺は

君の影を追いながら


君と同じ、

友達の仮面をつけよう。






「名字、おはようさん」






今日も君が

幸せに過ごせるように。










おわり
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ