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□トライアングル
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名字さんを好きになったのは、謙也から付き合うことになったと報告を受けてからやった。

名字さんの気持ちはいつも真っ直ぐ謙也に向かってて、頭ではいけないと分かっていても、

俺は彼女に惹かれていった。










『白石。謙也は?』




キョロキョロと教室を見回す名字さんは謙也がいないと分かるとすぐに俺の所までやってくる。


親友っちゅう重荷。

それを悟られんよう笑顔を作ることにいつから慣れてしもうたんやろ。






「謙也は委員会の集まりに行ったで」


『ふーん。じゃあ待ってる』




謙也の席に座り、優しく机を撫でる名字さんの口許は緩んでいる。

ほんまに謙也のことが好きで仕方ないらしい。






「なあ、聞いてみたかったんやけど」


『なに?』




謙也の席の前の椅子に座り見つめれば、名字さんもジッと俺の目を見つめ返してきた。




「謙也のどこがええの?」


『全部』


「全部、か。謙也よりいい男なんてたくさんおるやろ?何で謙也なん?」


『………』




俺が尋ねれば、俯いて何かを考えているようやった。

それから不意に視線をあげ、名字さんは困ったようにヘラッと笑ってみせた。




『謙也がいいんだもん。それ以外分からないよ』


「ノロケか」


『白石が聞いたんでしょ』




謙也の為だけに、
笑って泣いて。

はじめて心から謙也が羨ましいと思った。


名字さんの心は
絶対にぶれない。






「なあ、もし、謙也と別れたら」
『縁起でもないこと言わないで』


「だからもしもやって。謙也と別れたら、俺と付き合わへん?」




冗談っぽく言うてみたが内心本気で、ほんま最低な親友やと思う。

謙也への気持ちより、
名字さんへの気持ちが強い。

名字さんの謙也への気持ちもこんななのやろか。






『もしも謙也と別れることになっても、私は諦めない。謙也のこと、どうしようもなく好きなの』




最後はまるで俺へ告げたような一言で、

潤んだ瞳はきつく俺を睨みつけてきた。




『謙也遅すぎ。迎えに行ってくる』


「…おん。気ィつけや」


『校内だよ?』


「ん。オオカミに」


『それは大丈夫!謙也が守ってくれるからね!』










……やっぱりダメやったか。

名字さん…

何で親友の彼女なんやろ。



なあ、ほんまに好きなんやで。

声に出せない思いはどうすればええ?










「あれ?白石クン?」


「……誰?」


「ウチ隣のクラス!覚えててやぁ」




ああ、興味なかったわ。

何でこんな時に…




「暇なら遊びに行かへん?最近できたカフェめっちゃええねんて」




そういえば名字さんが謙也と行くって楽しみにしてたな。




「…ええよ。行こか」


「ほんまに!」




名字さん

ほんまのお前は手に入ってくれへんから


だから、
夢だけは見せてや。






「早く行こう!」


「ああ、楽しみやな。




………名字さん…」






誰にもこの声は届かない。


届いてほしい君にも。








おわり?
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