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□ふわり
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「部活の後に少し用事がある。先に帰っていてくれ」


『……用事って?』




それが告白の為の呼び出しだということはすぐに分かった。

蓮二は律儀だからそういうのを断ったりはしない。

そういう蓮二が好きなのだから仕方ないけど、正直とても複雑だ。




「クラスメイトに呼び出されてな」


『……そっか』




目を閉じて、深く深く、深呼吸をする。

きっと私笑えない。

こうやって蓮二を送り出すのははじめてじゃないのに、どうして今日は笑えないんだろう。

胸の奥が痛い。




「どうした?」


『蓮二』




袖口をギュッと掴み、一歩だけ歩みよる。

俯いたままなのは泣きそうな顔を見られたくないから。




『蓮二が好き。付き合ってください』


「名前…」




気付いたら私の口からは勝手に言葉が出ていた。

蓮二に好きだと言える子が羨ましい。

無性にそう思った。


私が最後に好きだと伝えたのはもう大分前だった気がする。




「名前」




ふわりと頭上に落ちる蓮二の手。

きっとまた言われるんだ。

もう少し大人になってからって。




「名前と出会えてよかった」


『…な、に?』




思いもよらぬ言葉に見上げた蓮二の顔はひどく優しい。

そんな表情も私を泣かすには十分過ぎて、
泣かないよう眉に力をこめてみたけれど、そんなことは無意味だった。




「こんな俺をずっと思っていてくれて、ありがとう」


『あ、当たり前だよ』




気付いたら蓮二が好きで、蓮二だけを追い掛けて。

私の世界には蓮二しかいなかった。




「さっきの言葉、もう一度俺から言わせてくれないか?」


『だ、だめっ。絶対に泣いちゃう』


「名前」


『やめ、て』






「俺と付き合ってください」






それはずっと待ち続けていた言葉。


人目もはばからず大泣きした私の腕を引き、空き教室へ連れていかれたのは、

泣き顔を他の男の子に見せたくなかったからだと、後から教えてもらった。






誰もいない教室。


私を選んでくれてありがとうという気持ちをこめて

重ねた唇が離れた瞬間




蓮二の気持ちが私の気持ち以上だったのだと

はじめて思い知った。








おわり
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