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□リスタート
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「そうっすか」


『応援してくれてたのに、ごめんね』




彼と付き合っている時、
嬉しいこと、悲しいこと、財前はいつも聞いてくれた。

年下ということもあって、彼には意地をはって言えなかったことも、財前には全て話せてた。






『結構きついっすわー』


「真似しないでください」


『私本当に好きだったんだよ』


「名前先輩、男見る目ないから」


『…否定はしないよ』




彼が本気にならないことは有名だった。

それでも私は傍にいたかったんだ。

優しくて、完璧な彼。
少しでも彼の時間が欲しかった。

私だけを見てほしかった。




『あーまずい』




涙が滲む。

それを必死に堪えていると、財前はタオルを私の目元に押し付けてきた。




「あの人の為に泣くの、ほんまむかつきますわ」


『なに、それ。ていうか痛い』


「この鈍感もほんまむかつく」


『失恋した時くらい優しくしてよ』


「…しゃーない。今日だけやからな」




タオルを持つ手が離れると、財前は面倒くさそうに鞄からペットボトルを取り出し、私へと差し出す。




「これ飲んで、いい加減泣き止んでください」


『これ…』


「名前先輩好きや言うてたやないっすか」




それは私が好きなブランドのミルクティ。


あの人は私がこのミルクティを好きだと知ることは一度もなかった。

彼が選んだ飲み物をただ、ありがとうと受け取って。






『財前、ありがとう』


「そんなんええから、早く俺のこと好きになってください」


『いやいや、何なのその冗談』




財前の突然の申し出に吹き出せば、
今まで見た中で一番優しい顔。




「これで泣き止んでくれるなら、今は冗談でもいいっすわ」


『え?』




聞き返してみたけど、財前は答えなかった。

少しだけ笑って、ジャージについた砂ぼこりを払い立ち上がる。




「完璧遅刻や。行きますよ」




そう言って差し出された財前の手。






『でも…』


「あの人なんか見ないで俺だけ見てればええやろ。つうか見てろ」




夏の日差しで見上げた財前がどんな顔をしているか分からない。


でもこの手は、

信じていい気がする。






『ほんと生意気なんだから』






伸ばしかけた手を強引に引かれ、

私は一歩を踏み出した。



今は辛くても

きっといつかあの人の前でも笑えるだろう。


そんな予感を胸にしまって。










おわり

20130807
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